シチューのCM

ジャムの上に紅茶を注ぐのは、イギリス式。本当のロシアンティーというのは、違うの。
濃厚な紅茶のエキス。カップの底に溜め、ポットのお湯で薄めていく。
うっすらと上る蒸気。律子の、ポットを支える手。
寒い外からやってきて、すぐにも温かいものが欲しかった。けれど、律子はてきぱきとお茶の準備をはじめた。だから、もうちょっと待とう、ね? 
まだかまだかと煮出しているのを見ていると、律子は言った。「温かく濡れたビスケットって……」
律子はテーブルの上にビスケットといちごのジャムを並べる。「外は、どうだった?」今日は、とても寒かった。「そう。……ホルダー付きのグラスがあれば、よかったけれど」
布きんで手を拭いて、律子もテーブルに着いた。
「ほら、これをね」
真似て、室温に緩くなってきた手でビスケットの端にジャムを乗せて、口へと運ぶ。
舌の上の、つめたい甘味。
律子は、白い磁器のカップを口元へと近づける。
先に来る、かすかな紅茶の渋さ。それがジャムを溶かして、甘味をいっぱいに広げる。「おいしい?」
うん、すき。
律子の目が笑った。
齧ったビスケット。もう一度。
口いっぱいのビスケットが、紅茶で柔らかくなってくる。
温かいビスケットに舌を絡める。
顔が熱いのは、少量のウォッカのせい? 舌の上に受け入れた温かみ……それが、とてもよく似ているから? 
ぽうっと、また衝動を思い出す。

シチューのCM

シチューのCM

  • 小説
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更新日
登録日
2020-01-28

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