かなしみ空中分解

(れもんの色が、きれいにみえたから、きみのこころも、すきまからそっと、のぞけたらいいのにって思った)

 花のひつぎに、あの、みずうみにすんでいたものたちが、ねむり、朝靄のなかで、白いドレスを着た女のひとたちが、おどる頃、星は、ゆるやかに、覚醒してゆく。
 いつまでも、笑っていて。
 そう、ぼくに云った、あのひとが、カメラのシャッターを切るとき、いびつだった箱庭は、一瞬、うつくしい楽園へと、変化する。
 額縁に囲われて、きみは、なにを想い、みずうみにすんでいたものたちが、花のひつぎのなかでみる夢は、なに色で、あのひとが、ファインダー越しにのぞいていた世界は、みんな、ほんとうに、現実だったのかを、かんがえるときの、すこしだけこころを、むしりとられる感覚。こわいよ。
 あのひとしかつくれない、あの、ぶあつくて、ふかふかの、ホットケーキを、たべられないことが、かなしくて、美術館の、いちばん目立つところで微笑んでいる、きみを観ては、泣いてる。ひとりぼっち、という言葉が、好きだけれど、きらいで、いま、ぼくの目にうつるもの、すべてが、にせものだったら、いいのにねって、雨の夜は祈ってる。
 濡れた窓に、町のあかりがにじんで、みんな、泣いているみたいだ。

かなしみ空中分解

かなしみ空中分解

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-01-27

CC BY-NC-ND
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