小さな星
瑠璃色の空の時間に、歩道橋から見る街路には、オレンジの灯りのもと、ひとの気配が寄せ集まり、川のように流れてゆく。
だれもしらない。
あたりまえだけれど、この街に、しらないひとはまだたくさんいて、しっているひとの方が少ないのだと思うと、すこしさびしいような気がする。でも、しっているひとばかりであるのも、やりにくいものだと、学校とか会社、なんていう集団のなかにいると感じる。顔見知りならば、いちいち、あいさつを交わさないとならないし、不用意に、ぞんざいな態度をみせれば、どこからか悪いうわさはたちのぼり、場合によっては孤立する、という人間関係のややこしさみたいなものを、わたしは煩わしく思う。そういうのとは無縁で暮らしたいために、どうにかうまいこと、まんなかの、どっちつかずの、面倒ごとをすりぬけられる抜け道を、つねに確保しておくよう努めることで、わたしはちゃんと社会のなかにとけこみ、生きている。つもりで、いる。
ただひたすらに泣きたい夜も、たまには、ある。
叫んで、ふだんつかわないような乱暴な言葉で、叫び散らしたい夜だって、ある。
くたびれたスーツを、いますぐこの場で脱ぎ捨ててしまい衝動にかられることも、稀にある。
街路を歩くひとたちが、みんな、わたしのことをしっていてほしいと思うこともあるし、この街のひと、みんな、だれもわたしのことをしらないでいてほしいと願うときも、ある。
車のライトは、じっとみていると、きれい。連なると、イルミネーションみたいで。ヘッドライトも、テールランプも。
歩道橋には、わたしと、見知らぬくまが、いる。
くまは、空を見上げている。ときどき、ためいきを吐きながら、くまは、瑠璃色の空ばかりを見上げている。
(くまにも、いろいろあるのかしら)
と思いながら、わたしも、目線を持ち上げる。
星がみえる。
点のような、星。
でも、人工的な光に負けないようにと、その小さな星は一際、輝いている。
小さな星