話を聞いて
僕のおばあちゃんは話を聞いてくれない。何を言ってもダメって言う。タバコはダメ。夜遊びはダメ。そんな遅い時間のコンサートなんて行っちゃダメ。野菜は残さず食べなきゃダメ。弟には優しくしなきゃダメ。僕の言い分なんか聞いちゃくれない。
僕のおばあちゃんは全然話を聞いてくれない。どんな話をしていても、いつの間にかおばあちゃんの話になってる。僕は僕の話を聞いて欲しいのに、いつの間にかおばあちゃんの昔の話、苦労の話。まるであたかも当然のように。そんでもって、こんな年寄りの話なんか聞きたくないわよねと、すぐに言う。そんなことないよって言葉も聞き入れてくれない。そう、僕がどんなにそんなことないよって言っても頷いてくれないんだ。いつだって僕のそんな言葉は右から左だ。
僕のおばあちゃんは本当に話を聞いてくれない。今日は帰るの遅くなるよ、って言ってるのに、すぐいつ帰ってくるのってメールを送ってくる。いつも少しずつやってるから大丈夫って言ってるのに、勉強はしなくていいのかってすぐ言ってくる。そのくせ学校やバイトを詰め込んで無理をすると、少し休みなさいって言ってくる。大丈夫って言っても聞いてくれない。大丈夫だからって言っても怪我したら困るって、10歳半ばまで包丁も握らせてくれなかったんだぜ?
おばあちゃんは今日も話を聞いてくれない。
減っていく体重。近づいてくる手術の予定に、日めくりを見ては溜め息をつく。もう私はダメかもしれないねって。薬を飲んでは溜め息をつく。そんなことないよって、今の技術は凄いんだよって。そんなこと言ったって右から左で。僕も一緒に病院ついていくって、話聞くって言っても、僕に迷惑がかかるからダメだって。大丈夫って言っても、入院中僕に家事を任せるのが申し訳ないって、心配だって。溜め息をつく。
そんなことない。そんなことないよ、おばあちゃん。大丈夫だよ。大丈夫だから。
ねぇ、おばあちゃん。今だけは僕の話を聞いて。話を聞いてよ。
僕のことなんか気にしなくていいんだから、おばあちゃんは自分の体、ちゃんと治さなきゃダメだよ。もうダメだって、そんな事言わないでよ。きっと大丈夫だよ。きっと大丈夫だから。
今日もおばあちゃんは話を聞いてくれない。
だから僕も、負けじと言う。
話を聞いて