phalaenopsis
最寄りの階段の1番上から突き落とされた気がして、僕のけして重いとは言えない体重分の衝撃が走った。
でも周りを見渡すと誰もいない原っぱで、冬の夜だったはずなのに春みたいに暖かい。
足元には確かに蝶が舞っている。
蝶は歌うように
「何ぼさっと見てんだよ」と言う。
彼女にもよく同じ事を言われたっけ。彼女はいつも不機嫌だったけど。
胡蝶の夢って知っていますか。
蝶はひとこと言ったっきりもう喋らないで、僕の周りに小さく開く花を回っている。
僕は今ここにいることか、彼女にもう会えないよと告げられたことか、どちらがほんとうかわからなくなった。もうとっくに、考える事にも疲れてしまっていたんだった。
彼女が宣言通り僕の前から姿を消してしまってから。
蝶はやがて僕の足先に留まり、そして足の甲に、足首に、脛に、膝の下にひらひらと舞って
きみのキスを思い出す。
そこでやっと僕のほんとうはこっちだったんだと気づくと、きみは嬉しそうに笑う。
「おせえんだよ、ぐず」
そんな顔初めて見たなあ、
そしてぼくはきみに、手をのばして
phalaenopsis