phalaenopsis

最寄りの階段の1番上から突き落とされた気がして、僕のけして重いとは言えない体重分の衝撃が走った。
でも周りを見渡すと誰もいない原っぱで、冬の夜だったはずなのに春みたいに暖かい。
足元には確かに蝶が舞っている。

蝶は歌うように
「何ぼさっと見てんだよ」と言う。

彼女にもよく同じ事を言われたっけ。彼女はいつも不機嫌だったけど。

胡蝶の夢って知っていますか。

蝶はひとこと言ったっきりもう喋らないで、僕の周りに小さく開く花を回っている。

僕は今ここにいることか、彼女にもう会えないよと告げられたことか、どちらがほんとうかわからなくなった。もうとっくに、考える事にも疲れてしまっていたんだった。
彼女が宣言通り僕の前から姿を消してしまってから。

蝶はやがて僕の足先に留まり、そして足の甲に、足首に、脛に、膝の下にひらひらと舞って

きみのキスを思い出す。

そこでやっと僕のほんとうはこっちだったんだと気づくと、きみは嬉しそうに笑う。
「おせえんだよ、ぐず」

そんな顔初めて見たなあ、
そしてぼくはきみに、手をのばして

phalaenopsis

phalaenopsis

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-01-25

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