ローマの休日


 カセットテープを挿入して再生する。白黒の背景に2つの車輪が映る。その乗り物に男性と女性がまたがって2人とも楽しそうに笑顔で会話をしていた。
「これなに?」
 私は聞いた。
 少女の問いにお父さんは答える。
「映画だ」
「映画?」
「昔、放映されていた名作だよ。確か……何とかの休日って言うタイトルだった」
「古い映像ね」
「ああ。大昔さ。ワタシのお爺さんよりもずっと昔の作品でワタシが知る地球唯一の映像だよ」
「ふーん。地球って白黒なんだね? ブロック造りでレンガ風の家しかないのね。ここのコロニーの方が緑がたくさんあるわ」
「でも、お父さんは地球の方が緑がたくさん生えていたと聞いたな」
「それならどうして地球は壊れたの?」
「分からん。ただ、一説には人が減り過ぎた所為だと聞いた。人が増えた所為で一時期は環境が悪くなったと言っていたが、実際、人が年々と数が減っていくにつれて地球は使えない星になったんだよ」
「意味わかんない」
「地球は人が管理しないと腐るんだよ。だから腐った」
 少女が何か言いたげに口を開いた時、サイレンが鳴った。とてもうるさい、耳障りな音だった。
「また、襲撃か……。目標の惑星まであと残り700年かかるって言うのに同じコロニーの中で争いか? 自分たちの区域で食料を管理すれば良いものを……。あと何回、同じ事を繰り返すんだ」
 男はそう述べると何やら重たそうな器具を肩にかけた。
「また行くの?」
 少女は心配そうな表情で言う。
「ああ。またさ。ワタシが帰ってきたら映画の感想でも教えてくれ」
 それから男は部屋から出た。
 少女は頷いて男を見送った。その後、ブラウン管の前に座って映像を観る。映像の女の人は『私は国家間の友情を信じています。人と人の友情を信じるように……』と語っていた。私は何となくムカついてブラウン管を思いっきり蹴り飛ばした。白黒の映像は消えた。

ローマの休日

ローマの休日

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-01-21

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