だれかの愛で町がほろびたとしても
メロンの色みたいなスカートが、ゆれてる。町を、高いところからみると、しらないもの、はじめてみるものがけっこうあって、うまれてから一度も、この町を離れたことはないけれど、なんだか何年もいなかったような、そんなノスタルジックな気分で、ぼくは、せんぱいの忘れていったたばこを、にぎりしめた。
きんぎょばちのなかに、せんぱいはいるよ。
たばこは、すわないときめている。おとなになっても。せんぱいが、すわないほうがいい、と言ったから、ぜったいにすわないときめた。だから、せんぱいが忘れていったそれを、正しくは、忘れてゆくしかなかったそれを、ぼくは、ぎゅっ、とにぎりつぶした。いまいましい、と思いながら、でも、四割くらいしか、いまいましいと思えなかったけれど。高いところからみる町は、ちいさいような気がする。ジオラマみたいで、にんげんは、蟻のようで、さいきんできた、この町にはふつりあいなタワーマンションも、おやゆびと、ひとさしゆびのあいだだけで、つぶせそうなほど。ぼくは、たばこをにぎりしめていない方の手で、そっと、左耳のピアスに、ふれた。せんぱいと、おそろいなんです。おそろい、だったんです。星のかたち。せつないくらいに、つめたいです。せんぱい、きんぎょばちのなかは、いかがですか。どうか、居心地がいいことを、祈ります。やさしいひとたちだけでは、町は、形成されず、せんぱいが、きんぎょばちのなかにはいらなくては、世界がまわらない、なんて、うそだ。
ぼくはゆっくりと、じっくりと、おもいかえすのです。せんぱいの表情を、仕草を、体温を、ゆびのうごきを、ねむっているときの、むねのふくらみを、吐息の熱を、皮膚の下の肉のかたさを、骨の感じを、たばこをすっているときの横顔を、それから、それから。
だれかの愛で町がほろびたとしても