あたしから、わたしへ
みどりいろの海で、わたしたちは、信じていたものを手放して、それは、かたちあるものも、ないものも、ひっくるめて、で、てのひらをひらいたら、一瞬で、解き放たれた気分で、たぶん、もしかしたら、信じていたものに無意識のうちに、縛られていたのかもしれない、なんて思いながら、白いガーデンチェアに座り、コーヒーなんかを飲んでいた。冬に。ホットコーヒーも、すぐに冷たくなってしまうような日に。バルコニーで。むかしの、いまから、そう、十五年前くらいのわたしは、まぎれもなく、あたしだったし、よどみなく、あたしだったので、夏は、はだしで、ミュールをはいていたし、みじかいスカートをはいても、なにもこわくなかった。ときどき、朝焼けに染まる海の向こうでは、黄金色の光がちらちらと揺れて、きまぐれにすがたをあらわす恋人は、真っ赤な薔薇の花束なんていう、ひどく定番でありながら、なかなかお目にかかれないそれを、わたしにさしだすのだった。あの頃、それなりに仲の良かったひとたちと、交わしあった、他愛のないメールの内容が、無機質なものに見えたとき、わたしのからだのなかで、さびしさがたなびく。魔法少女になりたいときも、あったね。お姫さまにも。こんなはずじゃなかったと思う夜もあるけれど、でも、だいじょうぶ。わたし、まだ、海がきれいという理由で、泣ける。
あたしから、わたしへ