恋の歌集

古に契りし人の夢枕
我老いゆけど君そのままに

あれほどに胸を焦がせし恋なれど
今は時雨に消えゆく花火


君抱き 褥に交わす睦言も
明日の命の片言混じり

閉じるなら 共にと誓いし命なれど
我逝くなれば 君生きるべし

案ずるな 二人の絆は世を超えて
永久に変わらぬ 深き縁ゆえ

(2020/05/06)


君我を 愛しと捧しその薔薇と
同じに抱くや枯れしのちをも

他の人に 嫁ぎし人の行く末を
思いやる自分の未練がましさ



白き肌に絡みてくねる黒髪を
束ねて微笑むきみよ愛しや

濃紺の浴衣に窓の海を見て
ため息をつく君の襟足

月の夜に立つ湯煙の風に舞い
絡みつつ消えゆく恋の儚さ

嬉しくも悲しくもあり秘め事は
去り行く窓の君を見つめて


逢いたいなあ あの人に
今もこんなに愛していると
老いて僕を忘れぬうちに


幻の君を心に抱いたままで
偽りの世を生き永らえし我

あの日より生きる屍となり果てて
己を偽り古希に至りぬ


色恋を 話す歳ではないけれど
今でも心に忘れえぬ人

あの人に いつかどこかで逢うたなら
なんというやろ 私を見つめて


白き肩に 曲がりてくねる黒髪の
君を抱きし春の夕暮れ

やわらかき君の手握りてもの言わず
歩けば空に宵の明星

つなぐ手を握れば返す君愛し
もの言わずとも通じる心


彼の人の面影恋しや忘れえぬ
手指に触れしそのやわらかさを



あの時に 言えばよかった胸の内
後になって そう思てます 

よそのお人はともかくも
あの方にだけは嫌われとうない

何時までも忘れんといてうちのこと
何処に居ようと誰といようと


白粉の 後に紅差し丁寧に
今日はあの人のお座敷やさかい

うちらかて 心の奥に居るんどす
好きなお人の一人や二人

けどまちがわんといておくれやす
命を懸けたは あんたはん一人



幻のきみ離れぬと囁けど
さみしや吐息も温もりもなく

愛したのはあの人じゃなく私なの
幻の君はそう繰り返す

目の前に生身の君が現れて
僕を抱きしめれば救われるかも

現実の老いたる姿を見るよりは
そばを離れぬ私を見てて



何も告げず 嫁ぎし君の心根を
測りかねては涙する日々

想い人 ただ君一人と誓いしが
世のしがらみ故に他へ嫁ぎぬ

忍び来て 我のこの身と心をば
奪へや君よあの日のごとくに

もう二度と離れぬ二人となりし今
他国に逃れて永久に暮らさん

 

離れゆく君の背中を追いかけて
好きだと告げた春の夕暮れ

泣きながらでカバンを抱いて黙ったままで
顔振りながら君かけ去りぬ



肌匂う 体を起こして引くルージュ
また電話するわと君は去り行く


どこの誰でもいいじゃない
乱れし髪を梳く指に
指輪を指して帰りゆくひと


もう二度と来たらだめよ言いながら
戸の隙間から我を見る人

ふとさみし 心の隙間に浮かび来る
君の面影 憎し愛しや


燻りて 炎と燃えぬやるせなさ
幼き淡き恋の心よ

断ち切れぬ 身はこの人と一筋に
思いつめるを この燃える身を


命までと思う我にもただ君は
母の言葉に 逆らいきれぬと

貧しさ故か それとも他に理由でも
応えぬ君を包む夕闇


バスの席 隣の君に心は燃えて
何も言えずに 揺れる街角

君に向け 文を書こうか止めようか
何時まで経てども ただ頬杖で 


寄り添いて 肩をあてども俯いて
顔赤らめて もの言わぬ人


(2020/01/19)


【忘れえぬ人】


この命 絶ちても切れぬ未練をば
抱きて今日も生きる屍

彼の人の写真を焼けどもこの胸の
消えぬ面影なぜに微笑む

いのちとも思いし君が去り行けば
どうして一人生き永らえよう

愚かなり 一重に愛を貫けば
応える君と信じた我が

若さゆえ 好きで添えない不条理を
今はわかれども あの頃の我には

他の人の妻であれ 例え老いようと
問いたやあの日の君の真心



【 甦る恋に 】


しがらみに諦め嫁ぎしあの日より
戻りし我を君は慕うや

一夜たりとも忘れぬ人の面影を
抱きて涙に明かぬ日はなし


なれど我 心ならずも奪われし
操は戻らじ誓いしあの日も

忌まわしき悪夢も覚めれば穏やかな
暮らしの日々にいつしか消えゆく

美しきその黒髪もかんばせも
変わらぬ君を誰が厭うや


ならば君 我を抱きしめ若かりし
頃に誘え 過ぎしあの日に


幾年のつのりし思いを切なさを
隠す臥所の夜は更けゆく


(また出来次第順次掲載、筆者)

恋の歌集

恋の歌集

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-01-16

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