信じられなくなること

海百合 海月

 さあもうこんな本を読んでいてはいけませんよ。
 目にはみえない「わるいこと」であふれているから、ちょっとずつ、酸素が減っているとおもう。
 華やかな景色に目がくらんで、ぼうっとしているうちに済んでしまった晴れの日が、ゆめのように、まぶたの裏にちらつく。
 部活を辞めなかった可能性のこととか、別人格のじぶんで過ごす学校生活の、ゆめ。
 午前二時、目が覚めるたびにすこしずつ、信じられるものが減ってゆく。ともだち、せんぱい、せんせい、ただしさ、すき、きらい。
 すきときらいのしりとりで、不毛な孤独の数をかぞえる。指折り、たりない。
 集合写真が届いた。すみっこに、初恋のひとが写っている。スーツがとてもよく、似合っていた。
 たくさんの思いこみがいま、正体を現して、ぷかぷかうまれて、おどっている。音楽は、なくたって、おどれたね。
 むかし。おとなたちのあざわらうようなことばひとつひとつが、そのうち、じぶんのくちからでるんじゃないかって、こわい。
 自己主張のループ。全方位への敬意なんか、とっくに捨ててきた。
 信じられるものが減ってゆく。息の仕方は、習わなかった。

信じられなくなること

信じられなくなること

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-01-16

CC BY-NC-ND
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