カラーコイン

らっきょ太郎

「ねえ。あたしのコイン見なかった?」
 定時で帰る準備をしていたときシシミズさんに言われた。
「何それ?」僕は聞いた。
「カラーコインよ」
「カラーコイン? 色がついてんの?」
「ええ。そうよ」
 シシミズさんは真面目だった。あまり冗談を言わない性格で仕事も静かに、キーボードのタイピングさえも音をたてずにやる。それで僕はシシミズさんが本当に仕事をしているのか疑うのだが何時も納期前に書類を提出していた。そんなシシミズさんがコインを失くしたことに対して気持ちが揺らいでる事が何となく不思議に思った。シシミズさんは「さっきまでパソコンの前にあったの。あれがないと困るわ」と言う。
「何色のコインなんだ? 赤とか青とか緑とか?」
 シシミズさんは首を振る。
「だからカラーコインよ。赤でも青でも緑でも虹色でもカミキリムシのような模様でもないわ。カラーコインなのよ」
 僕はため息を吐いた。
「シシミズさんが何を言っているか僕にはいまいち理解ができませんがきっと失くしたショックで上手く伝える事ができないんでしょうね。うん。分かりました。それじゃ一緒に探しましょう。例えば形とか大きさとか5円玉のように真ん中に穴があいてるとかカエサルの顔が彫られているとか特徴はありますか?」
 シシミズさんは前髪を触って「見たらすぐに分かるわ。天使が好きそうな形で甘い香水のような匂いがするわ」と言う。
 僕は呆れて「そんな情報で探せませんよ! もっとデパートで迷子になった子をアナウンスする店員のように語ってください」と文句を言った。
 シシミズさんはブスっとして述べる。
「リンゴのコーナーに1つだけ金のリンゴが混じっていたらすぐに目に止まるでしょ? それと同じ。黒い熊の中に白い熊が吠えていなくても注目する。それと同じよ」
 シシミズさんはそう言って机の下を探して始めた。僕はそれを見て少しめんどくさい人だなと考えつつ他人の机の下を覗いた。数分が過ぎただろうか腕時計をチラリと見た時、携帯が鳴った。僕は急いでポケットから取り出して電話に出た。
「まだいるか?」
 課長だった。
「はい。まだいます」
「おっ、ちょうど良かった。私の机に手帳があるだろ? 悪いが下の階まで持ってきて欲しいんだが、今、客が来ていて戻れないんだ」
「分かりました」
 シシミズさんを見る。彼女はまだ一生懸命にカラーコインというものを探していた。ご苦労なこった。
 僕はそうして事務所から出た、3メートルほど進んだ瞬間、シシミズさんの歓喜のような狂気なようにも聞こえる叫び声が聞こえた。
 僕はきっとコインを見つけたんだろうと思い事務所に戻った。しかしシシミズさんの姿はない。僕は疑問に思ってさっきまでシシミズさんがうずくまってコインを探していた場所に向かう。だがシシミズさんの姿は無く、おかしな事にシシミズさんが着ていた服とスカートと靴が脱ぎ捨てられていた。まるで身体が何処かに溶けてしまったかのようだった。服を触ると体温をまだ感じる。やっぱりさっきまで居たのはシシミズさんで幻なんかではない。
 しかしシシミズさんは見つからず残念ながら失踪した事になった。

 半年後、僕は残業をしていた。納期が近く忙しかったからだ。すると後輩が近づいてきた。
「お疲れ様です。先輩」
「うるさい。早く仕事しろ」
「ええー。そろそろ帰りましょうよ」
「まだ無理だろ」
 僕が答えると後輩は缶コーヒーを僕に渡した。
「おお、サンキュー。お前にしては気が効くな」
「酷いですねー。実は先輩にお願いがあって」
「何だよ」
 僕はめんどくさい顔をして言う。
「帰る時にカラーコインを一緒に探して貰いたいんです。ここの何処かに落としてしまったみたいで……」
 僕はヒヤリと冷たい汗を垂らした。それから聞いた。
「何だよ。カラーコインって」
 後輩は答えた。
「口づけみたいな感じです。天使のような……」
 僕は戸惑った。こいつは何を言っているんだ? と、だが、僕はその時に分かった。何故このタイミングなのだろうか? 後輩の後ろにカラーコインがあった。それで僕は思わず。
「あった」とぽつりと言った。
 しかし後輩は振り向きもせず大声で「あれじゃない!」と叫んだ。

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