センサー式の病
教えてくれない許し。君とか。
瞼を開くと僕は暗い部屋にいた。固いベッドの上で眠っていた。身体を起こして周りを見る。湿ったコンクリートの壁だった。光が薄っすらと見えた。その方向を見ると鉄格子があり、どうやら僕は鉄格子の『中』いる事が理解できた。ここは監獄なのか。刑務所なのか。分からない。そして僕が何故ここにいるのかさえも分からなかった。
声がした。喉の奥に塩を詰めた枯れた声だった。鉄格子の向こう側からだった。すると再び声がした。小さな声だったのでよく聞こえなかった。
「誰?」
僕は声の主を探して言った。
「よく眠っていた。ああ。本当に」
声の主は言った。
「お前は誰だ? そしてどうして僕は此処にいる?」
わははは。と笑う。僕はその笑う声の先をジーと見た。しかし暗闇には人の形の輪郭さえも見えない。僕は立ち上がって鉄格子の方に近寄り奥を見た。白い壁がぼんやりとも見えた。壁の前には木で出来た椅子が1つ置いてある。それから廊下があって奥にはまた廊下があった。でも人の形はない。
「そりゃ。悪いことをしたから捕まっているんだよ。良い事をした人が捕まるわけがない。そうだろ?」
僕は言った。
「誰に対して悪いことを? ううん。悪党にか? 善人にか? 腐った汁しか飲めない弱い者にか? だがその誰かに対して悪事を働いたにちげぇねぇなあ」
そう言うと男がいつの間にか白い壁により掛かっていた。ハットを深く被り下を向いていた。顔は見えない。長身だった。そして椅子に座った。
「記憶がない」
「そうかもしれない。でも歴史がある。歴史があるから君はそこにぶちこまれている」
「オーケー。それなら教えてくれ。その僕がやった事とか経緯とかそれを知っているんだろ? お前は看守か?」
「さあな」
夜行性の月が人並みに照らす時、桜の木からイチリンの花が咲いた。季節はまだ呼んではいない。だから僕は引き千切った。テニスボールがパーンと潰れるように僕の冷たい呼吸と共に首が締まったとさ。
で、空腹。
センサー式の病