『夜の遊園地』

利用者M

私は、そのひとの遊園地には入れなかった。
夜の静かな色に囲まれている遊園地は、ライトアップの強い光が、星が降るみたいに賑やかで綺麗だ。
きらきらとした大切な願いを持ったこどもたちが、楽しそうに誘われるように遊園地に足を踏み入れる。
その様子を私は少し遠くから見届ける。
遊園地をつくったそのひとを私は知っていた。
そのひとは叶えようとしていた。
それは強く、生真面目に。
こどもたちの大切な願いを。
だから、遊園地でそのひとはこどもたちを、目を細めて明るく迎え入れる。
こどもたちと朗らかに笑って遊ぶのだろう。
遊園地へ向けて私は微笑む。
こどもたちはきっと救われる。
願いは叶う。
そのひとの鮮烈な優しさによって。


次に私は視線をずらす。
遊園地の周囲の夜を視る。
立派な遊園地をつくるために要らなくなった、壊れた物たちがそこかしこに眠っている。
私の大切な祈りがそこに在った。
私は沈黙する。
掌をゆっくりと開いていく。
掌の中に錆びついた欠片。
遊園地が完成したとき、私は墓標のような瓦礫から欠片をくすねた。
語らない私はまぶたをゆっくりとふせる。
それでも遊園地の強い光と踊る音色は、私に届く。
掌の中の大切な祈りを握りしめた。
血が、少し出たように感じた。
遊園地をつくったそのひとに願えなかった私は、遊園地には入れない。
だから、そのひとと一緒に遊べない。
私は救われない。
ただ、眼を開けようと思った。
眼を開けて祈りを大切に持っていようと思った。
これこそが私のこころの還る場所だから。


私は眼を開く。
眼にいっぱいにたまった涙のせいなのか、少し遠くの遊園地は、より美しかった。
私はこの光景を刻む。
そしていつか、私は祈りを願いに研ぎ澄ます。
遊園地よりもささやかで素朴な願いを、きっと自分で叶えるね。
そのひとへ向けて私はこころの中で語りかけた。
ふと、掌に眼をおとすと、遊園地のライトアップの光が欠片に当たって、不思議な色合いを魅せた。
綺麗だと思った。


追記

『ある作業療法士さんへ』


これが私の寂しさの正体です。
最後の面談でさえ、あなたに言えなかった本当の寂しさは、今やっと物語に成長してくれました。
庭も遊園地も引き継いでくれる支援者が私を独りぼっちにさせてくれないのです。
その支援者のおかげもあって物語が現れた。
お互い、もう戻れないですね。
誰かが悪いわけではなく、変えようのない大きな流れだったのだと今は思えます。
あなたの仕事は私の糧にしていきます。
進みます。
ありがとうございました。

利用者 M

『夜の遊園地』

『夜の遊園地』

きみがいなくなった、その後のこと

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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