パラレルワールド
放課後、河原で制服ズボンをたくしあげ、裸足になって水遊びをする。それは俺たちの日常だった。うだるような暑さの中、授業を受けた後の気ままな一時。はしゃぎ疲れたら足を川になげだしたまま、座ってだらだらと喋って過ごす。太陽が傾くまでの何気ない時間が俺は好きだった。
「そういえば、お前が好きだって言ってた曲、聞いてみたよ」
一旦休憩。と、俺が川辺に座ると、俺も。と、隣に座ったそいつは川の流れを見つめながら、何の気なしに話し始めた。俺も同じように川を見つめる。流れていく水が足にあたって、泡をたて、また流れていくのを少しの緊張を持ってただ見つめていた。
「なんというか...難しくてさっぱりだった」
「そう」
「でも、」
その言葉に、何が続くのか。鼓動がさっきより少し速くなる。不自然にならないように、そっと顔を上げてそいつを見た。顔を上げた俺に気づいたのか、そいつも顔を上げ、目が合った。緊張が伝わるのではないかと、鼓動がまた一つ跳ねて、音を立てる。
「綺麗だと思ったよ」
そう言って、そいつは無邪気に笑った。あいつと同じ顔で。同じ声で。
『なんか...面白かったよ』
それなのに、言葉は、全く違う。
「そっか...」
こいつとあいつは違うんだ。当たり前だと分かっていた。でも、同じであればいいとも思っていた。
どこかで何かが変わって。それは、まるでバタフライ効果のように、目の前のこいつを、いつかのあいつとは違うものにしてしまったのだ。
「お前ならそう言うと思ったよ」
あいつに言ったのと同じように、寸分違わぬように。いつかの時に目の前のそいつに向けて言った言葉を、同じように吐き出した。
【パラレルワールド】
パラレルワールド