聖地

秋津 澪

 景色はもはや 真珠いろ。…
 (とお)くから 硬く 照りかえす。
 星々さながらの 乳白色は
 祈るがように さめざめと凍てつく。
 胸塞ぐ わが真冬の絵画。
 この風景画が 追憶の
 くすんだ橙いろに にじんで
 淡い 夕暮れに沈んで了ったのは、
 あれは いつの頃だったろうか。
 
          ──憧れは、いつも
            僕から きりはなされて。

 青い月光に 打たれる、
 がらすの 冬の景色には
 雪ふりつもる、風が立つ。
 そうであるのに 音なくて、
 きんと 光に打たれる音のみ。
 それは陰影にはしる 神経の反射、
 いたましい 天上の金属音。
 (僕の姿は 其処にない)
 ときおり ちらちらと銀いろの
 狼のまぼろしが ほうっと浮かんで
 青みがかった陰影を 毛なみに燦らせる。
 しかしそれも すぐにきえて往って了う。

         ──憧れは、地上から
           もはや 遥かにあって。

純白のまっさらな雪景色にあっては、月の光は音楽で、青みはがらすの反響である。ぴあの降る音、玻璃うつす月影。真珠いろをした風景画の、遐くて硬い照りかえし、僕はそれを悲しんで、心おきなく憧れて、そしてどこか安堵するのだ。安堵してはいけない、僕は其処へ往かなければいけない。かの絵画の透明性とは、肉体性の不在のことである。わが亡き風景画に、どうか肉体を与えよ。僕らは遥かな観念と、火花を散らして交わって、あらゆる思念を産み落とせるのだ。さすれば、わが真珠いろの幻影ははや鼓動し、その遥かな照りかえしはわが胸いっぱいにせせらぐであろう。

聖地

聖地

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-01-09

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