冬のセブンティーン
濃紺の、空に、ときどき、飛行機がとんで、光が、赤と、緑の、光が点滅して、あれをみるときの、わずかばかりの、不安感、みたいなものを、わたしは、もてあましている。
スーパーマーケットの、イートインスペースで、なんか結局、買ったばかりのメロンパンとか食べながら、あの子が、かなしみから解放されるのを、待ちわびたりしているので、どうか、帰ったら、あたたかいシチューがあることを祈ろう。ビーフシチュー。おかあさんたち世代の、ゆうめいな歌手のトリビュートアルバムに、好きなアーティストが参加していて、この曲いいね、なんて会話が、我が家でくりひろげられたあの、一瞬の、空気に、わたしは少々、めまいがした。水族館には、くじらはいなくて、イルカはいて、ペンギンがにんげんたちに、よちよち行進をしてみせて、コツメカワウソが愛想をふりまいていて、となり町の歯医者さんのしろくまが、物憂げにアザラシをながめていたりする。夜の海は怖くて、おなじくらい怖いのが、活気づく繁華街の、路地裏の、だれもいない、真っ暗なところ。息ひとつさえ、なまなましく、鼓膜にはりつくように、きこえるほどの静けさ。そのくせ、きみの声は、届かない。
ひとりじゃないのに、わたしはきょうもひとりぶって、態度が悪いとスーパーマーケットの店員に怒鳴り散らしているおじさんが、一体何様なのかと思いながら、メロンパンをかじってる。
十七才。
冬のセブンティーン