文鳥は、奏で響かせ、導となる。
文鳥は、奏で響かせ、導となる。
登場人物
奏♂ セリフ数106
…ちょっと冷たい大学3年生。文の事は好きだが、不器用が故にツンツンしがち。趣味で小説を書く文の妄想の材料にされがち。
文♀ セリフ数105
…素直な大学1年生。奏の事が好きで、思い切って告白してみたらOKをもらえて大喜び。もっと近づきたいと思っている。結構妄想家。趣味で小説を書いている。
導♂ セリフ数99
…穏やかな大学2年生。文の事が好きだったので、奏に取られて悔しい。文が奏と付き合うまでは妄想に喜んで付き合っていた。
響 ♀ セリフ数83
…さばさばした社会人。導の姉であり、文の良き理解者。相談をよく受ける為自分の事を後回しにしがち。結構ブラコン。
文鳥は、奏で響かせ、導となる。/夜御伽アウル
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配役表(2:2)
奏(♂):
文(♀):
導(♂):
響(♀):
↓ここから台本↓
文「おーはよっ!奏くんっ」
(文が奏に勢いよく抱き着く)
奏「お、わっ…!あぁ、文か。」
文「文だよ!…でへへへへ」
奏「なんだよ、急に笑い出して。こわ」
文「あーいや、えと…いまだに名前で呼んでもらえるの慣れてなくて照れちゃいましてね…?つい…でへへ」
奏「いや、それにしてももっと照れ方他にあるだろ!なんだよでへへって!可愛げの欠片もねえな!?」
文「かっ…可愛げの…欠片も…………」
奏「な、っあ…す、すまん!ちがっ、つい口から出たっていうか…」
文「つい口から出ちゃうレベルで!?」
奏「あああああ墓穴堀った…。」
文「奏くんそんなに私の事…あの告白のOKは、一体なんだったの…!?」
奏「お、俺はその…別に、文の事…」
文「べ、別にって前置きの時点で良い言葉が聞ける気がしないんだけど!?しかもなんでためる!?」
奏「あ、いや。違う!悪い言葉とかじゃなくてだな!その…」
文「あああああ怖いいいい!なになに、憧れの先輩への告白にOKの返事をもらって早2か月!こんなところで終わってしまうのか文ぁぁ…!」
奏「お、おわらっ…あ。」
(奏の言葉を遮るようにチャイムが鳴り響く)
文「ちゃ、チャイム鳴った…よね。今」
奏「あぁ…鳴ったな。」
文「やばいっ、講義始まる前に資料の印刷しなくちゃなのに!あと10分しか…!」
奏「なんで前日にしてこないんだよ!学校のサイトにPDFアップされてただろ!?」
文「だってぇぇ…昨日は久しぶりにびびっ!ときて必死にパソコンとにらめっこしてたからぁ…!!」
奏「はぁ…だからその目の下のクマかよ。隠せてねぇぞ。」
文「えっ!そんなに酷い!?確かに途中から隠すの諦めたけどぉ…っ」
奏「あんま夜更かしすんなよ…(小声で)心配だから。」
文「え、何か言った?ていうか、ごめんなさいあと5分しかないからもう行きます!」
奏「あ、ちょっと!…って、足はや…もういないし。」
文N『はぁ…。今日も奏くんはやっぱりかっこいい。憧れの先輩と恋人になって2か月。私の心は毎日小躍りするようにはねている。こんな気持ちを奏くんに知られたら「子どもみたい。」と言われちゃうかもしれない。確かに!奏くんみたいに、クールな大人じゃないんだけど。それにしても、そんなに目の下のクマ。酷かったかなあ…。昨夜思いついた小説の主人公の設定を考えてたら、寝るのが遅くなっちゃったんだよねぇ。かっこよくて不器用な男の子のお話!いつか完成したら、奏くんにも読んでもらおっと!私は、「よし!」と小さく声に出し気合いを入れて、勢いよく駆け出した。』
奏N『大学の後輩の文と付き合い始めて、2か月が経った。文は何をするにも一生懸命で、素直すぎる。不器用でつっけんどんな態度をとる自分が恥ずかしくなるくらいだ。さっきの言葉…本当は、照れる表情(かお)が可愛い。なんて俺の口からすらすらと言えるわけもなく、あんな言い方になってしまった。小さくなっていく文の背中を見つめながら、大きなため息をつく。何が恋人だよ、彼氏だよっ!
心の中で喝を入れ、俺は教室に向かって歩き出した。次の講義が始まるまで、あと3分。』
(同日昼過ぎ。駅前のカフェ、文と響が向かい合って座っている)
文「…ということがありまして、奏くんとそれから話せてないんですよぉぉ!」
響「いや、あの…文?」
文「はい?」
響「朝、あなたから突然『大変です!』ってLINEが来て慌ててお昼休みに会社を飛び出してきたんだけど…。」
文「わざわざありがとうございます!」
響「いや確かにお礼を言うのは大事よ!?けど、大変っていうから何事かと思ったら。最近できた彼氏君の恋愛相談…?」
文「えへへ、彼氏って響き…なんだかくすぐったいですねぇ」
響「…あなたが幸せそうで良かったわ、文。」
文「ありがとうございますっ!」
響「相変わらず素直なのは把握っと…」
文「それよりも!奏くんのことですよ、奏くん!」
響「あーはいはい、彼氏くんね。えーと?可愛げの欠片もないだの目の下のクマが酷いだの言われたんだっけ?」
文「そうなんですよぉ!もしかして、私の事嫌いになっちゃったんじゃないかなって怖くて!」
響「んー。あたしはその彼氏くんと会った事も、ましてや話したこともないから。なんとも言えないけど…。」
文「けど…?」
響「あたしが思うに、彼氏くんは照れ屋さんなんじゃないかなぁ?」
文「奏くんが?照れ屋さんなんです?」
響「そう。」
文「どうして、そう思うんですか?」
響「…女の勘ってやつ?」
文「女の勘…なんだか、かっこいいですね!」
響「(ぼそっと呟くように)文が素直で、助かったわ…」
文「え?何か言いました?響さん。」
響「う、ううん!なにも。とにかくよ!あたしの持つ女の勘では、その彼氏くんは照れ屋で本音を隠していると思うわけ。」
文「えぇ…?もう二か月も付き合ってるのに?」
響「『まだ』よ、甘いわね。たった二か月付き合ったくらいで、長いと思うなんてまだまだ…あ。」
文「…どうせ私、生まれて初めての彼氏ですよーだ。」
響「あー…そうだったわね。ごめんごめん。」
文「別にー?響さんがこのタルト奢ってくれなくても許しちゃいますけどー…?」
響「はいはい、ここのお代は出してあげるから。機嫌治して、ね?」
文「えっ!本当ですか!?ラッキー!」
響「あはは…。それにしても、初めての彼氏でよく自分からアタックしようと思えたわね?文のその行動力、感心する。」
文「んー…?好きになったので行動しちゃいました!行動力なんてありませんよ?私。」
響「いや、なんていうか…まあいいや。とりあえずもう少し彼のことよく見てみたらどう?そしたら、今まで見えてなかったものが見えるかもね?」
文「なるほど。今まで見えてなかったもの…」
響「そ。大好きな彼の意外な一面が!…みたいなさ?」
文「意外な…一面…!むむむ…」
響「あ、文の妄想が始まっちゃった…。」
(文の妄想)
奏『おう、文。待ってたぞ。』
文『えっ!奏くん、いつもは迎えになんて…ていうか!奏くんの家、ここから相当遠かった気が…。』
奏『何言ってんだよ文。可愛い彼女の為なら、これくらいの距離。なんともない。』
文『かっ…可愛い、彼女…!?』
奏『ん?何か、間違ったこと言ってるか?』
文『いいいい、言ってない!ただ、びっくりして…!』
奏『これくらいで驚いてたら、もたないぞ?』
文『えっ、それってどういう…?』
奏『こんなんじゃ足りないってことだよ…』
文『たたた、足りないって何が…!?』
奏『なんだ、そこまではっきり言ってほしいのか?文は欲しがり…だな。』
文『そっ…そんなつもりじゃなくてあの!えっと…!』
奏『ほら、知りたいんなら…もっと近くに来いよ。』
文『うあぁ…ま、待って!心の準備が…っ』
奏『嫌だね、俺が待てねえ。』
文『そ、そんなぁ…!』
奏『ほら…早く。じゃないと…』
(妄想終了)
文「そんな…奏くん…えへへへへ…」
響「おーい?文―?」
文「…はっ!」
響「あ、帰ってきた。」
文「悪くない。むしろ良いです、意外な一面!」
響「ん、んんん?」
文「ありがとうございました、響さん!」
響「へ?あ、どういたしまして?」
文「私、行ってきます!失礼します!」
響「ちょ、ちょっと文!?」
文「あ、タルトごちそうさまですー!」
響「いやそういうことじゃなくて!?…って、もういない。」
導「…あれ?姉さん。どうしたの、こんなところで。」
響「導!あなたも昼休み?」
導「昼休み…というか、僕は午後からだから。学校」
響「そうだったのね!あー、実はついさっきまで文と一緒にいたのよ。」
導「…文ちゃんと?」
響「そう!朝突然、『大変です!』ってLINEが来て呼び出されてさ。相変わらず忙しいよね、あの子。」
導「そうなん、だ。」
響「…えっと、ごめんね?」
導「なにが?」
響「文の事。導の気持ちも知ってたのに…。」
導「あぁ。姉さんが謝ることなんてないよ?僕としても、姉さんには文ちゃんの味方でいてほしいし。」
響「いや、でもさ…?あたしとしては…ね?」
導「わかってる。…それに、諦めてないし。」
響「…え、そうなの?」
導「そうだよ?」
響「…なんか、それ。複雑だわ、あたし。」
導「まあ、片思いが長かっただけに。さ?なかなか諦められないんだよね。」
響「そうねえ、もう何年になる?」
導「んー…6年くらい。かな」
響「うわっ、もうそんなに経つの!?そりゃああたしも社会人やってるわけよねぇ…。」
導「そうだね。髪が真っ黒で、制服を着ていた文ちゃんがあんなに見違えたのも分かる。」
響「…それで?諦められない貴方は、どうするつもり?」
導「さぁ…。僕にも分からない。」
響「…無いとは思うけど、文を困らせたりはしないでよ?」
導「分かってる。…けど。」
響「けど?」
導「アイツが文ちゃんを困らせるなら、僕が奪っても良いよね。」
響「…あー、なんていうか、安心したわ。いや、安心しちゃダメなんだろうけど。」
導「なにが?」
響「うちの弟が、ちゃんと男らしいっていうかなんていうか…そこまで誰かのために必死になれるんだなあって思ってさ?」
導「…文ちゃんだけ、かな。今のところはだけど。」
響「そして妙にリアリストなのよね。」
導「え?何か言った、姉さん?」
響「ううん!あ、あたしそろそろお昼休み終わっちゃうから会社戻るね。」
導「あ、うん。午後も頑張って、姉さん。」
響「ありがと!もし文に会ったら、暴走もほどほどにねって伝えといて!」
導「ん、了解。じゃあね。」
響「はーい、じゃあね。」
(大学の敷地内)
奏「うげ、次の講義休講になってるし。はぁ、どこで時間潰すかな…。」
導「…あ。」
奏「ん?」
導「…君、文ちゃんの彼氏だよね?」
奏「お、おう…そうだけど。…誰?」
導「…導。」
奏「苗字は?」
導「めんどくさい。」
奏「なんだよそれ!?」
導「どうでもいいでしょ、僕君の事嫌いだし。」
奏「…おい、初対面でいきなりそれは失礼なんじゃねえの?大体、お前何年だ?」
導「…はぁ(大きなため息)。2年だけど。」
奏「しかも年下かよ。」
導「僕は君に、どう思われても関係ないからね。」
奏「そうかよ、それでも年上に敬語くらいは使えた方が良いぜ?」
導「…はぁ(再び大きなため息)、文ちゃんはなんでこんなの好きになったんだろう。」
奏「あ?…なんか言ったか?」
導「文ちゃんの彼氏は、なんで君なの?」
奏「はぁ…?それは…文が告白してきたからだろ。」
導「気安く名前を呼び捨てしないで」
奏「いや俺彼氏だからな!?」
導「声が大きいよ、うるさい先輩だなぁ…。」
奏「ちっ…誰のせいだと…。」
導「場所変えようよ。先輩暇でしょ?」
奏「決めつけんなよ!…と言いたいが、ちょうど空きコマなんだよなぁ。」
導「ほら、やっぱり暇だった。」
奏「実際に声に出されて言われると腹が立つんだよ。」
導「(奏の言葉を遮るように)どこにする?カフェテリア?それともカラオケとか行く?」
奏「お友達かよ!?カラオケって話す気ないだろ!?」
導「なんか、カラオケ行きたいなって思ったから。」
奏「却下!カフェテリア行くぞ。」
導「はぁ…仕方ないな。」
奏「なんで俺が誘ったかのような態度なんだよ!?言い出しっぺはそっちだろ!?」
導「先輩うるさい。早くいくよ」
奏「誰のせいだと…!?はぁ、まずは移動するか。」
(カフェテリアにて)
奏「んで?来たけど、何が言いたいんだよ。」
導「文ちゃんの彼氏がどんな男か、品定めしようと思っただけ。」
奏「姑かよ!?」
導「僕、男だけど。」
奏「分かっとるわ、マジレスすんな。」
導「意味わかんない、この人。」
奏「申し訳程度に付けてた『先輩』はどこいった。」
導「(棒読みで)文ちゃんの彼氏先輩」
奏「もはや呼び方がめちゃくちゃだな…」
導「文ちゃんのどこが好き?」
奏「…え?文の好きなところ?」
導「そう、文ちゃんの好きなところ。彼氏なんだから、言えるでしょ。」
奏「好きなところか…」
導「うん。」
奏「…。」
導「…え、言えないの」
奏「いや、言える。けど」
導「けど?」
奏「普段、言わないから。なんて言えば良いのか…」
導「…は、なにそれ」
奏「ん?」
導「…ねぇ、あのさ」
奏「なんだよ。」
導「別れてよ、文ちゃんと。」
奏「…は?」
導「彼女の好きなところも言えないなんて、本当に好きで付き合ってるのかすら疑問に思えてくるね。僕の方が先輩よりも文ちゃんのこと好きなんじゃないかな。」
奏「…。」
導「文ちゃんの妄想癖は、知ってるよね?」
奏「おう、知ってるよ。」
導「あの子は、素直で…すごく鈍感。けど、あの子の妄想から生み出される小説に出てくる登場人物はあの子が身近に感じている人のことがよく書かれてる。」
奏「身近に感じている、人…」
導「あの子は、よく見てるよ。人の事。それでも自分のことに全力投球しているように見えるから…すごい。」
奏「…そう、だったのか。」
導「先輩、何を知ってるの?文ちゃんの」
奏「俺、は…」
奏N『導に「何を知ってるの?」と聞かれて、息が詰まった。俺は文の何を知ってるんだ?そもそも、文のために何をしてやれた?考えれば考えるほど、やっぱり素直になれない自分が嫌になる。目の前に座る生意気な後輩の方が、文の事を分かっているのかと思うと頭の中に妙な苛立ちが湧く。言えないだけだ、文のことが好きなのは自覚してる。…いや、その言えないのが問題なんだが。』
導N『やっぱり、文ちゃんはこんな奴と一緒にいるべきじゃない。自分の6年間の片思いが打ち砕かれた瞬間のことが思い出される。文ちゃんが、久しぶりに再会した僕に
文「聞いてよるべちゃん!私、生まれて初めての彼氏ができたんだよ!大学の先輩でね…えへへ。」
と、見たこともないような表情で微笑んでいるのを見て…悔しかったんだ。僕じゃ、そんな表情にすることはできないの?どうして、目の前に座る無愛想な先輩なの?僕なら、君の欲しい言葉をあげて、物語の登場人物にもなってみせるのに。その時、不意にスマホのバイブが鳴り響いた。』
奏「…なんだ?彼女か?」
導「なにそれ、嫌味?僕が好きなのは文ちゃんだけだよ。」
奏「…じゃあなんだよ。」
導「別に。先輩には関係ないし。」
奏「あーそうだな。俺には関係ない。」
導「僕、ちょっとサークルの招集かかったからもう行くね。」
奏「なんだ、サークル入ってんのか。」
導「まあね。だから、先輩みたいに暇じゃないの。」
奏「人を暇人扱いするな!」
導「どうでもいいよ。…じゃーね。」
(学校の最寄り駅の改札前にて)
文「あ、るべちゃーん!」
導「文ちゃん。どうしたの?急に、『助けて!』なんて。」
文「うん!久しぶりに、るべちゃんとお話したくてさ!」
導「…(嬉しそうにはにかんで)そっか。」
文「それと、ちょっと相談があって。」
導「相談…?」
文「うん。とりあえず、どっかでお茶しない?それとも、久しぶりにカラオケ行っちゃう?」
(文が歩き出し、導がそれについていくように歩き出す。)
導「…僕も、丁度カラオケ行きたいと思ってた。さっき友達に断られたばかりでさ。」
文「えぇ!るべちゃん歌上手なのにね!そのお友達さんに、『もったいないよ!』って言ってあげたい!」
導「…ふふ、ありがと。」
文「何がー?」
導「いや?文ちゃんは相変わらず優しいなあって思って。」
文「そんなことないよ!るべちゃんが歌上手なのは、事実だもん。」
導「そうやって、僕をたくさん褒めてくれるのは文ちゃんだけだよ。」
文「そうなんだ?るべちゃんは、器用で頭も良くて優しくてかっこいいのにね!」
導「……。(立ち止まる)」
文「るべちゃん?」
導「…あのさ。」
文「なあに?」
導「…ううん。なんでもない。やっぱりさ、甘い物食べに行かない?」
文「え?」
導「ほら、文ちゃんがこの間言ってたケーキ屋さん。僕も気になってたし。」
文「そうだったんだ!言われてみたら、私も甘い物が欲しくなってきたかも…!」
導「ふふ、行こうか」
文「はーい!」
(文達の通う大学の校門前)
響「うーん…やっぱり返信が来てから来るべきだったかなぁ。」
(困った表情でしばらく門の前をうろつく)
響「(呟くように)文ぁ…LINEみてよー…」
奏「あの…」
響「へっ!?」
奏「あ、すんません。なんか、困ってるように見えたから。えと…校内になんか用事ですか?場所が分からないとかなら、案内しますよ。」
響「あ、ううん!この学校に通う子に用があって来たの。ただ、LINE見てないみたいで…こまったなぁ。」
奏「そうなんすか…。」
響「まあ、そそっかしいというかマイペースというか。面白くて憎めない子なんだけどね!最近は彼氏ができたらしくて、その彼にぞっこんでさ。」
奏「は、はぁ…」
響「『彼がそっけない!』とか『もしかして私の事、好きじゃないのかなぁ…』とか不満を漏らす割には、『奏くん、奏くん…!』って。その顔がもう、完全に恋する乙女なわけ!あ、学年違うかもしれないけど知らないかな!1年の文って言うんだけど…!」
奏「(赤面して顔をそむける)…っ!」
響「ん?どうしたの?」
奏「いえ!なにも。」
響「そう…?あ、やっとLINE返信来た!…えぇ?駅前のカフェにいるの?昼休みもあたしとお茶したのに。」
奏「甘いものには目がないっすもんね。」
響「そうそう。まあ、幸せそうに食べてくれるからいいんだけどさ?」
奏「…で、駅前の方に行くんすか?」
響「ううん!もう店出るから、ここで待っててほしいって。」
奏「なるほど。…じゃあ、俺はここで」
響「まあまあ、待ってよ!もう少しお姉さんのお話相手になってよ!」
奏「は、はぁ…。」
数十分後
文「響さー…!?」
響「文―!待ってたよ。…って、あら。導も一緒だったのね。」
導「うん。文ちゃんとお茶してた。」
響「そうだと知ってたら、あなたに連絡したのに。」
導「まぁ、急に呼び出されたから。」
響「…で?どうして二人は固まってるの?」
奏「…いや、まあ。予想通りの反応というか。」
響「え?」
文「そ、奏くん…!」
響「え!?」
奏「あー…まぁ、そういう事っす。」
響「え、まじか。まじか!」
文「響さん!この人が、私の恋人の奏くんです!」
響「あら、あらあら…!(笑いながら)すごい偶然!君が噂の奏くんだったんだね!?」
奏「うっす。」
導「年上には敬語なんじゃなかったの。せんぱい。」
奏「うっせ。」
導「で。なんで姉さんは文ちゃんの彼氏先輩と一緒にいるの。…まさか先輩、文ちゃんがいながらうちの姉さんを口説いてたの?ないわ…。」
奏「違うわ!」
響「ちがうちがう!引き留めてたのはあたしの方!あたしがここでうろうろしてたら、心配して声をかけてくれたの!」
導「…ふうん。」
文「でも、まさかこんな形で紹介することになるとはね!」
響「ほんと。あたしもびっくりしたよ!」
奏「文!」
文「ん…?」
奏「その…あのさ。」
響「(小声で)導、行くよ。」
導「え。」
響「いいから。」
導「あ、うん…」
響「じゃあね、おふたりさん」
文「あっ、響さん!…行っちゃった。」
奏「とりあえず、さ。どっか座るか。」
文「わ、分かった…!」
(導と響、帰り道にて)
導「…。」
響「しーるべ。」
導「何。」
響「お姉さんに、話してみな。」
導「…別に、話すことなんか」
響「(遮るように)嘘。お姉ちゃんなめてかからないでよ?」
導「…はぁ(小さく、諦めのため息)」
響「よろしい。」
(しばらくの沈黙)
導「…相談されたんだ。」
響「うん。」
導「1週間前、付き合って2ヶ月の記念日だったんだって。」
響「…うん。」
導「何かプレゼントしたいんだけど、男の子って何を渡せば喜んでくれる?って。」
響「…。」
(回想)
導「…え?」
文「えっと、その…奏くんにね?プレゼントしたいの。けど私、奏くんの事何も分かってないから…。男の子の意見を聞いたほうが良いかなって!」
導「…そっか。」
文「お願い!こういうお願いできるの、るべちゃんだけなの!」
導「(呟くように)…僕だけ。」
文「…どう、かな?」
導「…そう、だなぁ。じゃあ、文ちゃんから見た先輩はどんなイメージなの?」
文「奏くんのイメージ?えーっと。かっこよくて、横顔が凛々しくて、真剣な表情も素敵で、目が離せないっていうか…えへへ、なんだか、恥ずかしいね。こういうの。」
(回想終了)
導「正直答えたくなかった。これ以上文ちゃんが遠くに行くのは、なんだか寂しくて。けど、先輩の事を語る文ちゃんの目はすごく輝いてた。…可愛いって思った。けど、僕じゃその笑顔を引き出すことは出来ないんだと同時に悟った。…悔しかったよ。」
響「…そっか。」
響N「普段から表情をあまり変えない。けど、そんな導が唯一と言っても良いほど感情的になるのは、文だった。あたしは姉として、二人をずっと見て来たひとりの人間として。応援してきたつもりだった。文に彼氏ができたとき、あたしの心境はとても複雑だった。
文『響さん!私ね、先輩に告白して、OKもらえたの!』
そう言って満面の笑みを浮かべる文を祝福したい気持ち。そして
導『姉さん。僕は、やっぱり文ちゃんが好きだなぁ。』
と呟いた導の表情が脳裏をよぎる。分からなかった。あたしは、大好きな二人の幸せをひたすらに願っていた。この結末は、望んでいたことであって、望んでいなかったんだ。けど、そんなあたしに
導『姉さんは、文ちゃんの味方でいてほしい。』
そう言った導の表情は、あまりにも真剣だったから。
(涙ぐんで)…ダメだな、あたし。お姉ちゃん、失格だ。弟に、励まされてる。
今度は、あたしが。あたしの番だ。」
(響が導の背中を叩く)
導「っ!急に、何…?」
響「んー?本当は頭を撫でたかったんだけどね?いつの間にかこんなに大きくなっちゃってるからさ?」
導「そんなこと言われても…」
響「(呟くように)頑張ったね。」
導「…別に。」
響「んーん。うちの弟は頑張った!そこのコンビニで好きなスイーツ買ってあげる。」
導「…(クスッと笑いながら)子どもじゃないんだからさ。」
響「子どもじゃなくても良いの!たった1人の姉なんだから、甘えなさ」
導「(遮るように)ティラミスが良い」
響「結局言うんかいっ!」
導「…ありがと、姉さん。」
響「ん。どういたしまして!…よーし、コンビニまでダッシュ!」
導「ちょ、言ったそばから走るなよ…!」
響「言い訳してると、おいてっちゃうわよー!」
奏「…あのさ」
文「(遮るように)あのね!」
奏「な…なんだ?」
文「これ!」
(文が鞄からラッピングされた小さな袋を取り出す)
奏「…これ、は?」
文「えっとその…キーホルダー…」
奏「キーホルダー?」
文「うん。…奏くんの誕生石のペンダントしてる、クマさんのキーホルダー。」
奏「開けて見ても、良いか?」
文「(黙ってうなずく)」
奏「(ラッピングをほどき、キーホルダーを見る)…随分、かわいらしいというか。」
文「ご、ごめんね!そういうの、恥ずかしくてつけられないかな!?」
奏「いや、そんなこと一言も…」
文「い、一応…私のとおそろいなんだ…!」
(文が自分のかばんにつけているキーホルダーを見せる)
奏「…!」
文「その、先週。付き合って二か月記念日だったでしょ?だからその…奏くんとおそろいのものが一つでもあればいいなあ…なんて思って。」
奏「…そっか」
文「で、でも無理して付けなくていいんだ!私が好きで買っただけだから」
奏「(遮って)ばーか。」
文「ば…!?」
奏「…大事な彼女からのプレゼント、喜ばない彼氏がどこにいるんだよ。」
文「!」
奏「ありがとな、文」
文「(目を潤ませて)奏くん…!」
奏「俺、感情表現苦手でさ。いつもころころ表情が変わる文のこと、最初は『なんだこいつ』って思ってた。けど、見ていて嫌な気はしなかった。むしろ、もっと見たい。…くらい。」
文「そ、そんなに変わってないよ!」
奏「今も、さっき泣きそうな顔してたのに。今、顔真っ赤だぞ。」
文「そ、それは奏くんが照れさせるから…!」
奏「言ってる側も恥ずいっつの。…付き合っていくうちに、見たことない文の表情が見れてさ。それが、結構嬉しかったりするんだ。嬉しいって思ったときに、あぁ。文の事好きなんだなーって実感した。けど、この通り愛情表現もまともにできないせいで不安にさせてたよな。…ごめん。」
文「う、ううん!私、奏くんがたくさん話聞いてくれるのをいいことに、暴走してばかりだから!…嬉しいの、奏くんが私の話を聞いてくれる時。すごく、優しい目をするから。」
奏「え…っ!?まじ?」
文「ずっとじゃないよ!たまにね。(照れ笑い)」
奏「そ、そっか…。ていうか。俺たちまだまだ、知らない事が多すぎるな。」
文「だね。もっともっと奏くんの事見なくちゃ!」
(文が奏に近づきじっと見つめる)
奏「ちょっ、近い近い!…照れる。」
文「ご、ごめんなさいっ!(赤面して慌てて離れる)」
奏「…(クスっと笑う)」
文「な、なんで笑うのー!」
奏「あー悪い悪い。照れ隠しだよ!…ったく。次の記念日は、俺がプレゼント用意しないとな。」
文「えっ?」
奏「それともなんだ、一緒に買いに行くか?」
文「そ、それって…もしかして…!」
奏「一応、デートに誘ってるつもりなんだけど?」
文「い、行く!行きます!」
奏「(はにかんで)おう。」
文鳥は、奏で響かせ、導となる。