「防御」「悪魔」「お父さん」

たつたつ

三題噺「防御」「悪魔」「お父さん」

音楽の授業はいつも退屈で眠くなる。
 今日は『魔王』という曲を鑑賞するとかで、教師がいそいそとCDをセットすると、教室中に暗い旋律と外国語の歌声が響いた。
手元のプリントには歌詞の日本語訳が羅列されている。多くの生徒が眠気を我慢しながら、プリントを眺めたりしている時、背中をつつかれた。
教師に気づかれないよう後ろを振り向くと、なぜか楽しそうな笑みを浮かべた由実の顔があった。
由実とはこの音楽室の時だけ前後の席になるのだ。
どうやら彼女もこの授業は退屈なようで、こうして時折ちょっかいをかけてくる。
「ねぇ、しってる?」
見咎められないようにだろう、気持ち声をひそめながら、由実が話しかけてくる。その背景では『お父さん、お父さん』と息子の怖がる声がしている。由実の声が聞こえにくかった私は少しだけ身を寄せて訊ねる。
「何?」
「三笠君の事」
『三笠』という言葉が出た瞬間に思わず、体が強張って防御の姿勢をとってしまう。
けれども先が気になった私は由実にはそれと気取られないよう聞き返した。
「三笠君がどうしたの?」
「私も聞いた話だけど…」
少しだけ勿体つけたように話を切り、視線を教師のほうにやった。
けれど、こちらには気が付いていないようで目をつぶって音楽を堪能している。
その様子を見て少し安心したのか話をつづけた。
「昨日ね、三組の洋子ちゃんに告白されたらしいよ」
そうして笑う由実の顔は、なぜだかさっきとは違って悪魔のように見えた。
「もう三組のみんな知ってるんだって」
そう付け加えた後も、誰々から教えてもらっただのと話を続けていたが、私の耳にはその後の言葉は入っていなかった。
暫くすると『魔王』が終わったのか、教師が立ち上がった。それを合図に由実は話を中断し、私も体を元の位置に戻した。
黒板の前で教師がその曲の成り立ちや意味を解説しているようだが、なぜかいつも以上に耳に入ってこなかった。
私の心に浮かぶ三笠君は、どこを見ているのかわからない、どこか寂しい表情をしている。
ふと気が付くと、少しだけ顔が熱い気がしたけれど、それを無視するように、ぎゅっとピンクのシャープペンシルを握り、目の前のプリントに集中するのだった。

「防御」「悪魔」「お父さん」

「防御」「悪魔」「お父さん」

ランダム(アプリ使用)に選ばれた三題について、原稿用紙3枚(800-1200文字)程度の短編小説。 今回は ・「防御」 ・「悪魔」 ・「お父さん」 できるだけ恋愛要素を取り入れられるようにしてます

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