自選歌集 2019年10~12月
籤引きで薔薇のしるしを引いたからわたしが花を手向ける役目
躑躅なら山いっぱいに見事だがよく見てみればいくつか髑髏
のけものと野の物の怪と飲みあかす残らず咲いた野バラのそばで
顔のない雨合羽から伸びた手が指さす迂回路の先は闇
叔母さんは前ぶれもなくやってきて五本の太い葱置いて去る
あ と思う電池で動く髭剃りのモーター音が弱りはじめて
みっしりとご飯が炊けた炊飯器いとなむことは少し苦しい
やる瀬ない気持ちはずっとそこにあるガラス細工の中の泡つぶ
ちょうどいい計量カップがキッチンで待っていたのでペン立てにする
朝なさな飽きず玉子を割る僕と夜なよな髪をいたわる君と
言い淀み迷うあいだも恋だから冷めてもおいしいお茶を探そう
恋人に黒いしっぽがはえている見ているうちに受けいれている
一号は二号がデビューするまでは番号なんてついてなかった
普通とは言いたくなくて辛口を選んでしまうところが普通
耐えきれず楽な姿勢をとったとたん木になってゆく限界だった
天国に孤独はあるか長すぎる話を聞かされそうな気もする
進化とは違う時間の中にいる金剛力士像の筋肉
燃やされた禁書の文字は虫になりすべての法を貪り尽くす
受付の奥の小部屋の暗がりにほんとのことが書かれたカルテ
ぞわぞわと小さいやつがいっぱいで気持ち悪いとゴジラは思う
ジパングの夢を見ながら浮かんでるエチゼンクラゲいつ目を覚ます?
撞球場ダンススタジオタイ料理二階にあることだけ知っている
どことなく生暖かく見守られ三位決定戦も敗れる
世紀末が期待はずれでどことなく萎縮している21世紀
タクシーが止まる自信のない夜で知らない長い橋を歩いた
移動式動物園の子象だけ記憶にあって夢かもしれない
膝裏が汚れているよ膝裏がしかしノンレム睡眠がくる
寝たふりでサンタクロースを待っている子供もきっと眠ってしまう
遊牧の羊の群れがあらわれてシャッター街から草原になる
店頭の蕎麦の見本がひびわれたままの蕎麦屋がまだそこにいる
自選歌集 2019年10~12月