【おみくじ】 え~、毎度、馬鹿々々しいお話を

 令和二年の元日の話でございます。高校生のシンジとタカシは受験前ということで地元の神社にお参りにいきまして。無事に願掛けも済ませおみくじでも引いてみようとなりまして。

「吉か、まあまあってところかな。タカシはどうだった?」
「俺か。凶だったよ。ついてない」
「どれどれ見せてみな」と覗き込むってえと。「あれ? なんだ? これ横向きじゃないか」
「言われてみればそうだな。となると」
「うん、これ凶じゃないな」
「こうして縦向きにしてみると……なんだこれ、区か⁉」
「区だな。しかしどういうことだろう。印刷ミスかな」
「そんな印刷ミスするか? どれ文面にはなんて……ええと『願望 思わぬ形で叶う 都知事に縁あり』。ああ、これは間違いなく区だな」
「しかし一体どういうことだろう」
 ふたりして首をかしげておりますと。「お、電話だ」とタカシ。「もしもし……うん……うん。え⁉ うん……まじか。わかった、じゃあ」電話を切りまして。「おい、えらいことになった」
「なんだ、どうした」
「今の電話、親父からなんだけど。突然引っ越しすることに決まったって」
「まじかよ。ほんとうに突然だな。しかも受験前に」
「うん、仕事の都合だと。しかも驚くなよ。引っ越し先は東京だ。それも23区内だそうだ」
「うわ。というと」
「そうだ、おみくじ当たったな」
「なんか怖いな。で、おまえも行くのか」
「前から東京には憧れていたからな。受験もなんとかなるだろ」
「なるほど、願望思わぬ形で叶う、か」
「ところでおまえのおみくじも見せてみろよ……どれどれ……おい、これ吉じゃないぞ」
「え、ほんとだ。言われてみれば吉じゃなくて告だな」
「告か。なにが起こるんだろう」顔を見合わせるふたり。
 そこで今度はシンジの電話が鳴りまして。なにやら神妙な顔つきで電話の相手と話しているシンジ。タカシは気が気ではありませんで。
「おい、誰からだった」
「クラスのタドコロだった」
「なに⁉ ミユキちゃんか? というと告とは告白だったのか。ちくしょー、このやろー。おまえばかりモテやがって。くたばっちまえ」
「まてまて、そうじゃないんだ」
「そうじゃないならどうなんだ」
「告白は告白なんだけど、おまえが思っているような色っぽい話じゃない」
「ふむ、というと」
「いわば懺悔だな。告解ともいうか。まえに、そうだなあれは夏の終わり頃だったか、俺のカバンに白いマジックで『豚野郎』といたずら書きされていたことあっただろ」
「ああ、覚えてる。というかあれは強烈過ぎて忘れようがない。だれの仕業か分からないし、おまえは身に覚えがないしで不気味で恐ろしかったな」
「あれは怖かった。恐怖心で怒りの感情も湧いてこなかったくらいだ」
「まさか」
「そのまさかだ。タドコロの仕業だったらしい」
「なんでまたミユキちゃんがそんなことを」
「あの頃に付き合っていた奴が他の女子と浮気をしたらしい。で怒りで『豚野郎』と書いたカバンが、どこでどう間違ったのか俺のだったと。彼女それをずっと気にしていたらしくて、卒業前に謝っておきたかったんだと」
「そうかぁ、ミユキちゃん彼氏いたのか。知らなかったなあ。くそう」
「おい、そっちかよ」
「それにしても、今年の干支がとり年じゃなくてよかったな」
「ん? なんでだ」
「酉 に 告 だと 酷 になってどんなことになっていたか想像するだけでおそろしい」

【おみくじ】 え~、毎度、馬鹿々々しいお話を

【おみくじ】 え~、毎度、馬鹿々々しいお話を

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-01-01

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