爪あとは鎖骨のふち
ああ、おわっちゃうなあ、って、つぶやくきみのよれよれのセーターのふちでは、鎖骨が浮き沈みしている。
缶ビールをつぶせるくらいの握力なのだから、そりゃ、圧倒的。
押したおされる瞬間、きみがぼくだけのものだってわかってとてもとても、とても、うれしい。
酔っぱらいの二酸化炭素。
なにかかなしいことがあるだろうか。おわること、って、すごく、自然なことだと思う。
はじめたがりばかりのせかいなのだから、おわりだって、あたりまえ。
夜の空気はつめたくて、冬には皮膚がなつかしそうに水に親和して、きもちよくて、だから余計に、きみとまざりたくなってしかたなくなる。不可能。
ちがうにんげんであることが、くやしくて、切りそろえた三日月型の爪のさきで、きみの開けくちをさがす。
きっと、鎖骨から、ばっくり、きみのなかみ、あふれる。
ふれられるのは、ふれられるということがうれしいのは、ちがうにんげん同士だからだって、わかってる。
わかってるよ。
おなじにんげんでなくてよかった。ぼくはきみと、恋をしている。
ぼくはきみに、愛を、している。
爪あとは鎖骨のふち