爪あとは鎖骨のふち

海百合 海月

 ああ、おわっちゃうなあ、って、つぶやくきみのよれよれのセーターのふちでは、鎖骨が浮き沈みしている。
 缶ビールをつぶせるくらいの握力なのだから、そりゃ、圧倒的。
 押したおされる瞬間、きみがぼくだけのものだってわかってとてもとても、とても、うれしい。
 酔っぱらいの二酸化炭素。
 なにかかなしいことがあるだろうか。おわること、って、すごく、自然なことだと思う。
 はじめたがりばかりのせかいなのだから、おわりだって、あたりまえ。
 夜の空気はつめたくて、冬には皮膚がなつかしそうに水に親和して、きもちよくて、だから余計に、きみとまざりたくなってしかたなくなる。不可能。
 ちがうにんげんであることが、くやしくて、切りそろえた三日月型の爪のさきで、きみの開けくちをさがす。
 きっと、鎖骨から、ばっくり、きみのなかみ、あふれる。
 ふれられるのは、ふれられるということがうれしいのは、ちがうにんげん同士だからだって、わかってる。
 わかってるよ。
 おなじにんげんでなくてよかった。ぼくはきみと、恋をしている。
 ぼくはきみに、愛を、している。

爪あとは鎖骨のふち

爪あとは鎖骨のふち

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-12-31

CC BY-NC-ND
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