自意識ドロドロ人間〜聞かざるver〜

泣いている子どもがいる
どうしたのと手を伸ばしそうになるのを必死でこらえて、イヤフォンを耳につける。
その瞬間から「その他大勢の人」から「音楽を聴いている人」に変わることができるからだ。


子どもはずっと泣いている
耳に物悲しい音楽が鳴り響いている
噛みしめる唇からは、自分にしかわからない錆の味がする


誰かが声をかけてあげてくれ
誰かが変えてくれ
誰かがどうにかしてくれ
頼むあの可哀想な子を誰か助けて


子どもは泣いている
やがて、誰かが子どものそばに駆け寄って、優しく話しかけた
その様子を確認すると、ホッとした気持ちでイヤフォンを耳から外した。

「その他大勢」にならなかったと自分に言い聞かせながら、壊れたイヤフォンをポケットにしまった。

自意識ドロドロ人間〜聞かざるver〜

自意識ドロドロ人間〜聞かざるver〜

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-12-30

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