ひとくち、ちょうだい

海百合 海月

 半額シールの真っ赤なのはべつに、クリスマスだったから、って、わけじゃない。
 ホール食いをしたいといいはるきみと、六畳の部屋、暖房はうまく効かないしずかな部屋、ケーキをまえにしている。
 フォークですこしずつたべるか、ひとおもいに噛みついてみるか。
「これは大問題だよ」
 真剣なきみの眉のかたちは、冬空の澄んだ星とか、陽だまりに舞うほこりとか、化石にとじこめられた蟻とかより、だんぜん、うつくしい。
 絶対評価。
「けもの的でありたいよな」
 きみの飛躍した理論のとりこであるので、ぼくはただひとつうなずいて、ひだりてに持っていたフォークを置いた。たん、とも、かち、ともつかない、音。
 いちごもひといきに。クリスマスにはまっしろいドレスのケーキにいちごだけがみっつのったしずかなケーキがよい。
 くちびる、べたべたと、あまそう。
 舌でそっとなめとられるクリームに、ちょっと、なりたかった。
「背徳感、だ」
 背すじがそのきもちよさにぞくぞくなる。クリームまみれのきみは、いつかきっとうつくしいドレスのおんなのこと愛を誓ったりするんだろうな。
 お行儀がわるいとか、もったいないとかは、非理論的すぎるので、却下。
 ひとくちでたべられる量なんてたかが知れていた、あとは、フォークを手にして。
 ほんとうはひとつのケーキをふたりではんぶんこしたかったとか、ぼくの恋情理論は非理論。恋は、どこまでいっても、理屈じゃない。
 いえないことばばかりが、いつかこのあますぎるケーキのように胸を焼いて、ぼくは、だから、きみの目のまえで、骨になる。ゆめ。

ひとくち、ちょうだい

ひとくち、ちょうだい

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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