恋の喪失

あおい はる

 地下室は、どうか、やさしさを保管できるところに、しておいて、それで、ときどき、足りなくなったそれを、補いたい。
 わたしが好きだというと、せんせいは、こまった顔をするし、なまえもしらない赤い花は、咲いても、咲いても、花びらを散らして、それで、赤い水たまりみたいなものをつくる。月は、反転しても、月で、学校は、せんせいがいなくなっても、ちゃんと学校で、わたしは、せんせいがいなくなった学校では、わたし、ではないような気がして、仮面、とまではいかないけれど、薄いベールをかぶっていて、世界が、すこしだけ、不明瞭。いつの頃からか、街はかたすみから、すこしずつ砂糖に、なりはじめている。どうぶつたちが、きまぐれに、わたしたちのすみかに、はいりこんできて、うとましいというひともいるけれど、わたしは、それが、ふつうだとおもっている。自然で、普遍で、道理で、つまりは、ふつう。
 夏は、花火を、いっしょにみたかった。
 せんせいとみたかったけれど、せんせいは、そのとき、まだ、学校のせんせいだったので、だめだった。
 冬の花火は、いっしょにみられると思った。せんせいは、学校のせんせいでは、なくなったから、みられるかと思ったけれど、だめだった。おおきな音がにがてで、というせんせいの答えに、わたしは、もう、この恋はおわりなのだと悟った。だから、冬の花火は、行きずりのしろくまと、みた。行きずりのしろくまと、コンビニで買った、あたたかいココアをのみながら、花火をみた。
 ちょっとだけ、泣いた。

恋の喪失

恋の喪失

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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CC BY-NC-ND
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