ある放課後の一コマ
放課後、私は学校の屋上にやってきた。
夏も終わり、秋に入り始めの空は高く感じる。雲も夏のそれとは変わり、秋らしい雲になりつつあった。
私は鉄柵前まで行き、鉄柵に寄りかかる。
玄関前の自販機で買ってきた缶コーヒーのプルタブを引き開け、口に一口含む。それとペットボトルのお茶もいっしょに買ってきたので、それを私の右側に置く。纏わり付く夏の湿っぽい風では無く、すり抜けるような心地良い風が髪を撫でる。ブラックは飲めないから砂糖とミルクが入ったコーヒーだけど、それでも大人っぽさは感じられる。
ガチャリとドアが開く音がした。私はドアを目線で見る。女子生徒のようで、漆黒の長い黒髪が特徴と言っても過言ではない位の美しい髪を揺らしながら、私に向かって歩ってくる。
「今日も姫名が先に来てたのね。たまには私が先に来たいな」
「私は夕波さんとは違って暇なので」
「私だって好き好んで、多忙なワケではありません」
「そうでしたね」
そう言うと私の右側に座り、先程置いたお茶を手に持ち、キャップを開け一口飲む。彼女は飲み方まで上品だった。
「所で、何で姫名は部活入らないの?」
「入る気がないからです」
「その気があれば、入るの?」
「気が向いたら入ります」
「姫名は捻くれ者さんだね」
「この性格は元からです。夕波さんこそ生徒会会長を何で断ったんですか?当選間違い無しとまで言われたのに」
「はっはっはっ、もう知ってたんだ、と言うより知ってて当然か。んーほら、生徒会会長って忙しいじゃない。私には務まらないかなぁって思ってね、それで断らさせてもらったの」
「でも・・・」
『でも夕波さんなら大丈夫です』と言いそうになるのを堪える。「大丈夫」という言葉の裏には「責任」という言葉があると思っているから私は言い出せなかった。
「・・夕波さんがそう思っているなら、仕方ないですね」
「それにね、生徒会会長になったら、こうして貴方とお話が出来なくなるのが嫌だからってのも理由の一つなの」
「は?」
「あら、そんな驚いた顔を見せてくれるのは初めてね」
「いや、そんな突然ワケの分からない理由を聞かされれば、誰だって驚きますよ?!」
「あらあら、顔も赤いわよ?」
「・・・・!!」
落ち着け私。何をパニクっているんだ。たがが話が出来なくなるだけだ。何があるんだ後。
「ふっふっ・・・はぁ、私ね、周りから期待されるのは嬉しいの。でも私には、その期待はちょっと重かったみたいでね、疲れちゃったの。それで息抜きのつもりでこの屋上に来ていたのだけど、そんなある日に姫名、貴方がここにいたの。貴方は私の独り言を、その缶コーヒーを飲みながらただ聞いていてくれていたの。何だかそれが心地良くて、この時間が無くなるのが寂しくなったの。だから生徒会会長の立候補を断ったの」
俯いていた顔を上げると夕日に照らされた彼女の顔が輝いて見えた。その両眼には光る透明な粒が夕日を反射してキラキラとしていた。
「夕波さん」
「何?姫名・・・え?」
私は無意識に彼女を抱きしめた。理由なんて知らない、体が勝手に動いたのだから。
「夕波さん、ここにいる時位はちょっとは私に甘えても良いんですよ?」
「えっと・・・姫名?どうしたのかしら?」
「泣いている夕波さんは綺麗ですが、やっぱり笑っている夕波さんが私は好きです。ですが、泣きたい時はどうぞ遠慮なく泣いてもらって構いません。私が側にいますし、もし夕波さんが独り言を零したい時は遠慮なく零して下さい。隣で缶コーヒー飲みながら聞いています」
「あ、えーーと、うーーん・・・ありがとう?なのかな?この場合。とりあえず姫名、もう大丈夫ですよ」
「・・・・・!!」
あー、やってしまった。と心の中で猛省する、まともに顔を見れない。とりあえず冷静を装うと缶コーヒーに口をつける。コーヒーは甘く、苦かった。
「そろそろ帰りましょうか」
「・・はい」
「姫名」
「はい?」
「明日こそ私が一番に来ますからね!負けませんよ!」
そう言いながら笑う彼女を見ると、モヤモヤが一層広まっていく気がした。
ある放課後の一コマ
百合物の恋愛を書いてみたくなり、勢いに任せて書いてみました。勢いで書いているので、中身がすかすかですが、一読宜しくお願いします。