2019冬コミ ポプ本試し読み

くらうでぃーれん

 c97、冬コミで頒布予定のポプスト同人小説「魔法の本でいく、異世界漂流記~ポプストではよくあること~」の試し読みです。エメリアとキャリーがメインのお話です。タイトルの元ネタは実は、本編のコラボイベの時にシロエが言ってた台詞だったりします。
 思ったよりも予定が詰まってしまって、少し急いで書いた感のある個所が散見されます。堪忍な‥‥
 ただ、どうしても伝えたかったことはお話のラストでしっかりと書けたのでその点は大変満足しております。


 ――気が付くと、そこは森の中だった。

 あまりにも突然で脈絡(みゃくらく)がないけれど、ありのままの事実なのだから仕方ない。
 ただ、脈絡はないが思い当たることはある。

 ――魔法の本。

 ついさっきまでセントフェーレス学園の図書館にいたはずなのだが、課題に必要な参考書を探している時に突如(とつじょ)開いた本が輝きだしたかと思うと、ここにいた。

 何を言っているか分からないと思うが、というほど珍しいことではない。

 こうして唐突(とうとつ)に学園の外、恐らく異世界に放り出されるのは果たして何度目だろうか。魔法の本経由で異世界に行ったり来たりするのは学園ではよくあることだ。

 とはいえ、気を抜ける状況ではないことも確かだ。こうしてどこか分からない場所に放り出されて、必ずしも分かりやすく帰還(きかん)の手段が用意されているわけではないのだから。
 それに、その手段に辿(たど)り着くまでこの世界で生き抜かなければならないのだから。

「‥‥あれ? ねえキャリー、なんでエメリアたちこんなところにいるの?」

 なにより、共に来てしまったエメリアを守らなければならないという使命感が強い。

「どうしよう、キャリー。もしかしてココ、異世界かなあ。エメリア、ちゃんと学園に帰れるのかなあ‥‥」

 不安そうな声で、エメリアの小さくて柔らかくて温かくて可愛い手が、ぎゅっとキャリーの手を握る、
 エメリアと、知らない異世界で、ふたりきり。何も起きないはずがなく‥‥。

「安心して、エメリア。夜になって寒くなれば、肌と肌で温め合うと良いと思うわ」
「へ? まだお日さま高いよ‥‥?」

 困惑した様子で、強張っていたエメリアの身体の力がゆるゆると抜けていった。そう、エメリアを安心させるために必要な言葉だったのだ。だからもっと安心させるために、もう少しくらい行動が伴っていても良いんじゃないかと思うのだ。

「そうね。明るい内に、どこか落ち着けそうな場所を探しましょう」

 しかし冒険は始まったばかり。まだ慌てるような時間じゃないわ、とひとまず目先の問題から考えることにした。
 分かる範囲(はんい)で、現在自分たちの置かれている状況を整理する。

 見ての通り、自分たちが今いる場所は森の中。耳を澄(す)ませても聞こえてくるのは風の音、木々のささめき、鳥の声。聞こえてくるのは自然の音ばかりで、人の気配はここからでは伝わってこない。そして、魔物の気配も。
 どういう世界であるにしろ、今すぐ凶悪(きょうあく)な魔物に対処しなければならないという心配はなさそうだ。

 魔法で周囲を探索しようとして、身体を巡(めぐ)る感覚にわずかに眉(まゆ)をひそめた。
 あまり得意な類(たぐい)の魔法でないのは確かだが、それにしてもやけに効果を感じづらい。いや、その魔法だけではない。そもそも魔力を行使すること自体が難しい。体全体を薄い膜で覆われているような、鈍(にぶ)い感覚。封(ふう)じられているわけではないが、何かしらの制約(せいやく)を受けている。

「あれっ、キャリー。なんだか魔法が使いづらい気がしない?」

 エメリアが自分の両手を見つめながら眉をひそめて声を上げる。
 制約を受けているのは自分だけではないらしい。となると、世界を移動する際の弊害(へいがい)でなければ、この世界そのものが魔法という概念(がいねん)に順応していないということか。

「う~、なんか気持ち悪いよ~。ぎゅ~って頭押さえられてるみたいで、すっごい変な感じがする~‥‥」

 感じ方はそれぞれだが、普段当たり前のように魔法を使っているせいで、それを制限される不快感や違和感はやはり小さくない。
 というかそんなことより、嫌がっているエメリアが可愛い。すごく可愛い。ここがどことかどうやって帰るかとかより、エメリアのkawaiiのほうがよほど問題だ。

 エメリアにいつどこでナニをするか考えながら、いくつかのジョブを発現させてみる。武器などの装備がいつもより重いように感じはするが、ジョブ自体はいつも通り扱える。
 わずかであれ魔法もジョブも使えるなら、ある程度の不測(ふそく)の事態には対応できるだろう。
 となれば、ここでジッとしているよりも行動を起こすべきだ。

 ごく自然な流れでエメリアの手を取ると、ふたりは異世界の森の中で一歩を踏(ふ)み出した。
 ここがどこか、どこに行けば何があるのかが分からない以上、適当に進むしかない。魔力で周辺の探知がほとんど出来ないので、どこか視界が狭められたような感覚には不安を煽(あお)られる。しかし今は、とにかく情報を得ることが先決(せんけつ)だった。

 道が合っているのか確かめるすべはなく、人の気配はなかなか見つけられなかった。時折動くものの気配を感じて近付いてみると、そこにいるのは野生らしき動物ばかり。獰猛(どうもう)そうな動物はふたりでなんとか火の魔法を使って威嚇(いかく)し、追い払う。

 そうして歩いてゆくことしばらく、聞こえてきた足音にふたりは足を止めた。今までと違うその音に、エメリアを制して音に集中する。

 野生動物のそれとは明らかに違う音。足音と共に、金属音のようなものも聞こえてくる。
 間違いない、今度こそ人間だった。

 数は、多い。統率(とうそつ)もそれなりに取れている。装備も特定の人物だけでなく、全員が身につけているようだ。恐らく、民間ではなく国などの大きな組織(そしき)の兵士。

 武装(ぶそう)をしているようではあるが、激しい戦闘を想定しているような物々しさは感じられない。雰囲気から察するに、何かを捜索(そうさく)している様子である。こちらの存在にはまだ気付いていなさそうだ。

 その場に隠れて様子を窺(うかが)い、効きの悪い遠視の魔法で確認する。ぼんやりと見える視界の向こう側にいるのは、十人ほどの同じ鎧(よろい)を身につけた兵士。その後方にはローブを身に纏(まと)った魔(ま)導士(どうし)のような影も3つほど。その表情や動きには好戦的なものは見られない、が。

 ‥‥賭(か)けるしかなさそうね。

 情報を得るには彼らに接触する他なく、ここを逃(のが)して状況が好転するとは限らない。キャリーは覚悟を決めると、エメリアを促して木の陰から身を出した。

 念のため武器だけはすぐに使えるよう腰に提(さ)げておくが、警戒心を悟られないようそれ以外の装備は解除しておく。
 エメリアにもそうするよう伝えると、途端に表情が引き締まり、同じように装備を整える。

 エメリアも、同じ冒険者見習いのひとり。やらなければならない時がいつかは、よく分かっている。

 出来るだけ警戒心を抱かせないよう、こそこそすることなく堂々と正面から向かってゆく。相手が友好的だった場合、敵視された場合、様々な状況を想定しながら。

 やがて、向こうもこちらの存在に気が付いたらしい。兵士たちの足音に乱れが生まれた。そのまま歩調を緩めることなく緊張と共に進み続けると、ついにその一団が目の前に現れた。

 先程見えた通りの、十人ほどの兵士と魔術師たち。兵士は揃(ぞろ)いの鎧を身につけ、腰には一振りの剣を提げている。飾(かざ)り気のない装備だが、決して質の低いものではないことが見て取れる。

 魔術師のほうは暗い茶色の簡素なローブに身を包み、最低限の防具と腰にはお飾り程度の短剣をぶら下げている。
 対してこちらは学園から飛ばされてきたのだから当然、制服のまま。それがこの世界でどの程度奇異(きい)な服装として捉えられているかは分からないが、少なくとも重戦士(じゅうせんし)の格好に見えていないことは確かだろう。

「あら、こんな森の中で奇遇(きぐう)ね。そんな物騒(ぶっそう)な格好して、どうしたのかしら?」

 先んじてこちらから声をかけると、彼らは困惑を深めて顔を見合わせた。ちらちらとこちらに視線を送りながら、何かを確認し合うように目を見合わせている。

「あなたたち――」
「貴女(あなた)方は――」

 こちらが口を開くと同時に、彼らの先頭にいた男が口を開く。同時に言葉を止めて、キャリーが無言で促すと男は恐る恐るといった様子で頷いた。
 何も分からず喋(しゃべ)るよりは、ある程度相手に喋らせた方がやりやすい。何も分からない場所では最初が肝心だと気を引き締める。

「貴女方は‥‥」

 男は迷うように一(いっ)拍(ぱく)の間を空けてから、そう言った。

「貴女方は――勇者様ですか?」

 それを聞いたキャリーの返答は――。

「‥‥‥‥‥‥はぁ?」

 気の抜けたそんなひと言だけだった。

  1

「なるほどね‥‥。つまり、元々あまり仲の良くなかった隣国(りんごく)がこの国と戦争をする準備をしているらしい。けれどこの国の戦力は低いと言わざるを得ない。だから異世界の戦士、勇者を召喚(しょうかん)した。召喚には成功したけど、思った場所には召喚出来なかった。そんな感じかしら」

 場所は変わって、ふたりが居るのは先程の森の近くにあったお城の中。
 森で出会った兵士たちに話を聞いて、国王と対面して再度詳しい事情を聞いているところである。

 概要(がいよう)は、今話した通り。キャリーの要約を聞いて、エメリアは急にしたり顔になってうんうんと頷いていた。先程までの王様の話はほとんど理解できていなかったようだ。

 しかし、まさか勇者とは。どうやら妙な重荷(おもに)を背負わされてしまっているらしい。
 出来れば早く帰る方法を探したいが、そう簡単に見捨てることも出来ない。ここにセリムがいれば、嬉々として引き受けているのだろうが。

 どうしたものかと視線を巡(めぐ)らせ、改めて状況を確認する。

 この場にいるのは自分たちを召喚したらしい魔術師たちと、ぐるりと部屋を囲むように配置された兵士たち。そして数人のメイドと、正面には王様。
 通されたこの場所は、会食場だろうか。広い部屋の真ん中には大きな机。目の前にはケーキと紅茶。毒を盛るような敵意と陰湿(いんしつ)さは持ち合わせていないようで、ケーキはふんわりとしていて甘すぎず、紅茶の香りは心を落ち着かせてくれる。

 とりあえず、事情は理解した。面倒事に巻き込まれてしまったとは思うが、今は他に情報がなく、ここを離れてしまえば身を寄せる場所もない。
 なによりこれだけ話を聞かされて、関係ないと放っておくことは出来そうになかった。

「‥‥分かったわ。協力してあげる」

 紅茶を置いて了承(りょうしょう)の意を示すと、分かりやすく王様の表情が安堵に緩む。
 ちらりと隣に視線を向けると、エメリアが眉根(まゆね)を寄せてカップを睨(にら)んでいた。少し、エメリアには甘さが足りなかったようだ。

「ただし、少し状況を把握(はあく)する時間は貰(もら)うわよ。明日にでも隣国へ攻め込んでくれ、なんて要望は聞けないわ」
「はい、それは、もちろん‥‥」

 釘(くぎ)を刺すようにそう付け加えると、気の弱そうな王様はそれでも嬉しそうにへこへこと頷いている。外交(がいこう)はあまり得意でなさそうだ。

「ねえ~‥‥」
「ど、どうかされましたか‥‥?」

 と、エメリアが不満そうな声を上げ、王様がひどく不安そうに慌てながらエメリアに視線を向ける。

「この紅茶、苦くない? エメリア、もっと甘いココアが飲みたいな~」

 唐突かつ脈絡のない要求にしばらくポカンとしていた王様だったが、すぐに側に控えていたメイドにすぐにココアを持ってくるよう命じていた。さすがというか、こんな時でもマイペースだ。とても可愛くてよろしい。

 マグカップに入ったココアが運ばれてくると、エメリアは嬉しそうに「ありがと~」と言いながら飲みかけの紅茶をキャリーに差し出した。
 呆れた笑みを浮かべながら、エメリアの飲みかけの紅茶に口を付ける。

 エメリアの、飲みかけの、紅茶に。

 エメリアのふくよかな味わいが口いっぱいに広がり、ほんのりと甘いエメリアの香りが優しく包み込むように漂い、ほぅと息を吐けば心地良いエメリアの余韻(よいん)に満たされる最高の一杯です本当にありがとうございました。

「とっても美味しいわ‥‥」
「気に入っていただけて光栄(こうえい)です」

 なぜか安心する王様に適当に返してエメリア風味の紅茶を飲み干すと、再び本題に戻った。

「ところで私たち、呼ばれたばかりでまだ分からないことがたくさんあるの。いくつか質問させてもらってもいいかしら」
「はい、なんなりとお聞きください」

 こちらの立場が分かった以上、半端(はんぱ)な探りを入れる必要はない。単刀直入に、この世界についての質問をぶつけることにした。

「私たちは別の世界からあなたたちに召喚されたわけだけれど、この世界ではそういう召喚魔法は一般的に使われているの?」
「いえ、魔法と呼ばれる、そのような力が存在していることは分かっているのですが、今回勇者様をお呼びするのに成功したのも半ば偶然(ぐうぜん)のようなものでして‥‥。今回の召喚もそうですが、そういった魔法という力をほとんど扱うことは出来ません。魔法の研究を主に行っている国もあるにはあるのですが‥‥。私の知る限り、我が国以外のほとんどの国でも同様だと思います」

 やはり、この世界では魔法は当然の力ではないようだ。使い慣れている自分たちさえこれほど扱いづらいのだから、当然といえば当然か。

「それじゃあ、私たちを召喚したのは誰?」
「我々でございます」
「あら」

 予想外に、大人数だった。
 立ち上がった代表らしい男と、私も参加しましたと言うように胸を張っている十人ばかりの魔術師たち。
 召喚を行えるほどの魔力の持ち主がいれば帰る方法を模索(もさく)できるかもしれないと思ったが、これは当てが外れてしまった。強大な力を有するわけでもない者をたった2人召喚するのに十数人がかりとは、こちらの基準では大げさすぎると言わざるを得ない。

「じゃあ、そうね‥‥戦争が起きそうだという情報は、どれくらい正確なのかしら」

 気を取り直して、次の質問へ。

 自分たちの立場は分かった。目的も分かった。しかしだからといって何の裏付けもなく行動を起こすことはさすがに出来ない。
 おつかいクエスト程度ならともかく、今は戦争という不穏(ふおん)な言葉も出てきているのだ。

 王様はなんとも曖昧(あいまい)な様子で瞳を彷徨(さまよ)わせ、申し訳なさそうに視線を伏せた。

「‥‥必ず、と言い切れるわけではありません。宣戦布告されたわけではありませんので」
 国政に詳しいワケではないのであまり難しいことは分からないが、そう簡単に他国の動向が分かるものではないのだろうか。

「ですが、ヤツらが戦いの準備を進めていることは確かです。であればこそ、有事(ゆうじ)に備えて軍備を蓄(たくわ)えておくべきです。攻められてからでは遅いですから、迎撃(げいげき)の準備をすることはマイナスにはなりますまい。勇者様のお力を借りられるのは心強いですが、より確実に対策を施(ほどこ)しておかなければなりません。慢心(まんしん)することなく、より堅牢(けんろう)に守りを固めるべきです」

 そこへひとりの魔術師が立ち上がり、なにやらひどく熱のこもった声を上げる。
 無理矢理呼びつけた相手を前にしてなかなか失礼な男だが、言いたいことは十分に理解できる。学園でも何かあった時は、幾重(いくえ)にも策を講じて万全の状態で事に当たるようにしているのだから。

「それは、そうかもしれんが‥‥」

 勇者の前ということと、戦争の準備に気が進まないということも重なってか、王様はそれまで以上に曖昧な返事にも満たない声を漏らす。
 少しずつ状況は理解してきたが、こんな不確かな情報だけで何をしろというのか。焦りと恐怖に背を押されて召喚という未知の手段に手を出してみたら上手くいってしまった、といったところだろうか。

 元々明るい話ではなかったのもあって、場が重い空気に包まれる。さすがに、この雰囲気を修繕(しゅうぜん)するすべをキャリーは持ち合わせていない。

「はい、エメリアもしつもーん」

 と、エメリアが元気よく挙手(きょしゅ)し、沈みかけていた場の空気をポヨポヨと軟化(なんか)させる。
 やや面食らいながらも王様が発言を促(うなが)すと、エメリアはとっても楽しそうで可愛い笑顔を浮かべてそう言った。

「――この国に、可愛い服屋さんと美味(おい)しいスイーツ屋さんはありますか」

 戦争とか、策略(さくりゃく)とか、そんな感じのお堅(かた)い空気がザバ~と流れていく音が聞こえた気がした。
 ぽかんとする人々を尻目(しりめ)に、エメリアは期待に満ち溢れたニコニコ笑顔で返答を待っている。

「‥‥ふふ、うふふっ、あはははっ」

 思わず、笑いが漏(も)れた。
 エメリアを守らなきゃと思っていたけれど、こういう時に癒(いや)しを与えてくれるのはいつだってエメリアだ。
 肩の力を抜いて混乱を静めるようにひらひらと手を振ると、キャリーに注目が集まった。

「これ以上、この場で話を進めるのは難しそうね。素敵なスイーツのお店、私も知りたいから後で教えてちょうだい。だけどその前に、ひとつお願いがあるのだけど‥‥」

 正面に座る王と、その側に控(ひか)える兵士たちに視線を巡らせて、さりげない仕草でほんの少しだけ胸元を開き、机に肘(ひじ)を乗せて身を乗り出し、上目遣いに彼らを見つめて言った。

「私たち、少し疲れているの。ふたりでゆっくり休めそうなお部屋、用意してもらえるかしら? 出来るだけ、綺麗(きれい)で大きい部屋が良いわ」
「‥‥‥‥」

 男たちの視線が集まり、メイドでさえも頬(ほお)を染めて小さく息を飲む。
 一瞬の静寂(せいじゃく)が広間を支配し、ごくりと喉(のど)を鳴らす音が聞こえた。その動きに気付いたエメリアが負けじとセクシーポーズ(だと本人は思っているのだろう)を取っているが、残念ながらそちらに目を向けている者はいない。

 もっとも、いてしまっては少々困るのだが。

「は、はい、もちろんです。上等な部屋をご用意させていただきます」

 感情に振り回されるように勢いよく頭を振る王様に、キャリーはにっこりと満足げな笑顔を返したのだった。


 ぽてっとベッドに背中から寝転がると、ぼふーっ!と可愛い生き物が勢いよく真横に飛び込んできた。
 なんとなく抱きしめてみたら、ぎゅーっとし返してくれた。ハァーーッ! 理性のタガが弾け飛んでしまいそうだワァーーーッ!

 案内されたのは、客室として使われているらしいひとつの部屋。他の部屋を見ていないので比較は出来ないが、少なくともかなり上等な部屋であることは十分うかがえた。

 ふたりで寝ても有り余るほど大きなベッドは全身を包み込むように柔らかく、干したてなのか温かい太陽の匂いが立ち昇る。足元には毛の長い絨毯(じゅうたん)が敷(し)かれ、床で寝ても十分快適なのではないかと思わされるほど。

 壁際に並ぶ調度品(ちょうどひん)も高級なものばかりなのだろうけれど、芸術には疎(うと)くどれほどスゴい物なのかは分からない。
 エメリアはベッドのふわふわを存分に楽しみながら、先程案内してくれたメイドに貰ったオススメのお店のメモを見ながらウキウキと頭の羽根を揺らしている。

「ねえキャリー、ひと休みしたら街にお買い物行こ? エメリアね~、みんな知らないような可愛い服い~っぱい買って帰りたいな♪」
「いいわね~」

 すでに帰ることを考えている。可愛い。

「それでそれで、美味しいものもたっくさん食べようね! お土産(みやげ)も買って帰ろ!」
「そうね~」

 すぐにでも帰れると思っている。可愛い。

「そうだ! 明日にでも相手の国に行って、やっつけちゃおっか!」
「‥‥‥‥」

 無邪気(むじゃき)にそんな提案をするエメリアはやはり可愛いが、ここはさすがに首を縦に振るわけにはいかない。

「‥‥あのねエメリア。私たちは、この国の、この世界のことを何も知らないわ。何も知らないままこちらが正しいと決めてしまうのは、早すぎるんじゃないかしら」

 国同士の諍(いさか)いは、個人のケンカとは規模も意味も大きく異なる。勝利という言葉には、犠牲(ぎせい)が付き物だ。
 来たばかりの世界でこんな重荷を背負わされてしまうのは、正直ひどく気が重い。出来れば何も関わることなく帰りたいという想いもあるけれど、ああして切実にお願いをされて無下(むげ)に断るというのも難しい。

 エメリアはしばらく難しい顔で何かを考え、やがてハッとして顔を上げた。

「じゃあこのお城の人たち、エメリアたちに嘘ついてるんだ!」

 もちろん可能性としては絶対にないとは言い切れないが、どうしてそんな極端(きょくたん)な思考に走りがちなのか。
 いつも通りのエメリアに癒され、ふふっと思わず笑みが零(こぼ)れた。エメリアの気楽さには、やはりいつだって元気を分けてくれる。

「とりあえず、明日は隣国の様子を見に行ってみましょう。どうするかは、それから考えましょうか」

 今はとにかく――デートを楽しむワ! と満面の笑みでエメリアの頭を撫(な)でるのだった。

2019冬コミ ポプ本試し読み

こんな感じのノンキなお話です。興味持っていただけると幸いです。
冬コミ来れる人はゼヒ会場で、それ以外での頒布は需要次第でまた考えます!
頒布価格は500円です。よろしくお願いします(˘ω˘人)

2019冬コミ ポプ本試し読み

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