バカオタ篇其の1

これちかうじょう

  1. 高瀬旬
  2. 不破翔吾

僕は沖縄に来ている。今頃一ノ瀬さんは北海道で、
天野君も北海道で…。
そういえば橘君は来年、北海道か。
僕だけ情報科学部で、ほかのみんなは総合進学部で、
なんだか疎外感。
でも、僕は気になっている。
おいてきちゃったあの子のこと。
イーストのこと。
そして、くまさんのこと。

高瀬旬

「じゃあ高瀬君、今日はこれで解散ね」
「はい」
僕は放送部の副部長として頑張っている、情報科学部2年の高瀬旬。
部長の一ノ瀬さんに憧れてはや2年目。
一ノ瀬さんは一応上司であり、同い年であるんだけれど、
それでも、憧れは憧れである。その容姿、その声、そしてその人当たりの良さ。
僕も見習うべきところがたくさんある、魅力的な人だ。
ただ残念なのは、学部が違うこと。
僕が情報科学部で、彼女は総合進学部。
だから部活動以外で一緒になることはない。
「あの、一ノ瀬さん」
「なあに?」
「その、今度入学式…やはり僕が司会進行なんでしょうか」
「それはもちろんよ、高瀬君以外にだれがやるの」
「でも僕、自信がありません」
「大丈夫よ」
彼女の言う、大丈夫というのが、僕のモチベーションを上げる。
「あなたいい声してるもの、それに礼儀正しいことはだれが見てもわかること。
 そんなあなただからこそ、司会進行を任せたいっていう声が生徒会からも出てるの。
 大丈夫よ、自信がなくてもすぐに実力が追いつくわ。
 私もしっかり、原稿書きあげるから、任せておいてね」
「は、はい」

そういうわけで、4月8日。
僕は壇上の上にいる。
暗幕の中で指示を出してくれるのが一ノ瀬さんで、同じく壇上には生徒会のふたりがいる。
ふたりとは、藤堂さんと、天野君。
天野君は初等部からの友達で、そう、僕の、唯一の友達で、
ちょっと仕事人間って感じのする、頭のいい人だ。
「それでは今年度の新入生入学式をこれより執り行います」

「ど、どうでしたか一ノ瀬さん」
「それはもうばっちぐーよ!」
一ノ瀬さんにそう言ってもらえるだけで満足な僕なんだけど、
「高瀬、君も実力つけてきたじゃないか」
天野君にまでそう言われるとドキドキしてしまう。
「天野君こそ生徒会、2年目ですもんね。頑張ってくださいね」
「それはもう。それよりさっきから何か視線を感じる気が」
「視線、ですか?」
きょろきょろと周りを見渡すけれど、誰もいないし、
ここにいるのは僕と一ノ瀬さんと天野君だけだ。
「誰もいないじゃないですか」
「おかしいな、確かに気配がするんだけど」
「天野君も仕事ばっかしすぎて頭がいかれちゃったのよね!」
「一ノ瀬もひどいこと言うね」
そう、なのだ。
1年の時から一ノ瀬さんと天野君は同じクラスなのである。
僕も総合進学部にすればよかったのかなあ。
そうすれば毎日一ノ瀬さんにおはようって言えたのにな。

「コードネーム、高瀬旬、ログインします」
ここは情報科学部のとある校舎の地下室。
イーストと呼ばれる組織の末端の部屋である。
僕はそこの一応、責任者みたいなものをやっていて、
これはほかの生徒には内緒なんだけれど。

「索敵開始、」
とりあえずだ、いつもの行動、いつもの行動。
「0件ヒット…よかった」
敵がいなければ僕の行動も無駄になる。
それでいいんだ、それで。

「ログアウトします」
パソコンのメインスイッチを消して、僕は立ち上がる。
もう、こんなひとりの世界が、半年続いている。
半年前、一度だけ大きな戦闘があって、
その時の主砲だった深沢さんは今、いない。
電磁波の攻撃というんだろうか、そういうものをじかに受けるのが主砲。
攻撃の最先端にいて、そして防御の最先端にいるのも主砲だった。
僕はその時補佐として横にいて、何もできなかった。
そう、何も。

不破翔吾

「高瀬、調子はどうかな」
「五典先輩」
五典先輩は、兄弟でイーストに所属していた初代の主砲だ。
弟さんのほうは僕と同い年で違うクラスだけど。
「調子はまあまあです、最近は索敵にもひっかかりません」
「でも高瀬一人じゃ大変じゃない?」
「大変ではありますが」
「そこでね、後継者をひとり、見つけておいたよ」
後継者?と僕は首をかしげる。
「すごいハッキング能力がある子だって噂なんだ。ぜひともスカウトしてみてよ」
「ぼ、僕がですか?」
「本当は僕がやってあげたいんだけど、ほらこれ、進路相談表」
「お疲れ様です」
同じ情報科学部としては、その『進路相談表』がいかに重要かは知っている。
僕も一応、夢があって、それを叶えるためにはその進路相談表が重要だってことも、
重々承知しているわけであって。
「その子の名前は何ですか」
「不破翔吾っていうんだ。一年生だよ」
「い、一年生!?」
「不満?自分が情報科学部の主席生徒だから、年下は不満かな」
「いえ…驚いただけです」
せめて同じ二年生だと思っていたのに。
年下と触れ合うなんてのはあんまり僕には不向きすぎて困る。
本当に、困るんだ。

「彼は華道部にいるみたいだから迎えに行ってあげてね」

華道部、とは放送部と同じ文化部だから天野君の担当だなあとか僕は思ってしまっている。
「確かここにいるんだよな…」
こんにちは、とドアをノックする。
華道部は独自の生け花センターみたいなものも持っていて、
そこにいるんだろうとは思っていたけれど。
「はい?あ、高瀬先輩だ!」
「あの、ここに不破君て子がいるって聞いてきたんですが」
「いますよ、不破くーん」
さぞかし、ハッキングにたけてるってことだから、目つきがきりっとしててーとか、
ちょっと胡散臭い、とか思っていたんだけれど。

「はーいー」
「え」
「こんにちはー高瀬先輩ー」
な、なんだ、このぼえぼえ感。
「どーしたんですかー?俺に何か用ですかあー?」
「あ、その、ちょっとついてきてほしいっていうか…その、」
「いいですよーお」
背だって僕より小さいし、ただぼえぼえ感が過ぎてしまっていて、
僕は少し戸惑ってしまう。
第一、この子は入学したてじゃないか。
僕が司会進行した入学式に出て間もない、
単なる一年生。
ついこの間までは中学生だったってだけの。

「ここです」
「ほわー」
イーストの組織は地下組織である。
誰にも知られてはいけないので、入る時もパスワードを3回入力する。
ログインするときも、ログアウトするときも、
同じく3回パスワードを入力する。
「ここって案外狭かったんですねえ」
「し、知ってたんですか?」
「はいー、ちょこちょこハッキングしてましたからあー」
この子のどこにそんな能力があるんだろうか?
「とりあえずあらかた紹介します、そこに座ってください」
「はーいー」
補佐の席に座らせて、僕は主砲の席へ。
「いいですか、ログインパスワードは」
「…知ってるよ、東に棲む魔物ってのを特殊な暗号化したものだろ」
「…んん?」
「だいたいさあ、そんなパスワード今どきはやんないって!せめてこれにしようぜ」
「あ、あの?」
さっきと全然違う人間になってるんですけど?
パソコンを前にすると人間が変わるのを、僕は初めて見てしまった。
「くまさん日記」
「!」
「これでわかりやすいだろ、簡単に入れられる」
「な、な、な、」
「何でそれを知ってるかって?言ったじゃん、俺、何度も青陵ハッキングしてるんだって」
「ち、ち、ち、」
「違う?じゃあ何、自分がネット上でひそかに書いてた日記が何で俺にばれてんのって、
 そういう話?くまさんくまさん聞いてよ今日ね、っていっつもこれで始まるお前の日記だろ」
「…」
どうしよう、僕の一番ばれたくない秘密をこの子は知っている。
くまさんが大好きなのを、それでイースト活動日記とか他もろもろを書いているのを、
この子は知っている。
「何、言葉なくしちゃった?俺があんまりにも変わっちゃって?あはははは、
 俺はね、パソコンの前に座ると人間変わっちゃうんだよ。
 天才ハッカーだもんさ」
「ハッカー?」
「うんそう。賞金稼ぎって呼ばれてることもあるな。相棒もいるし、その相棒と荒稼ぎしてさ、
 今度紹介するよ。だってイーストに連れてきてもらったんだもんさ、そのお礼に」
「イーストのことも知ってたんですか」
「くまさん日記読んでれば誰でも分かるだろこれくらい。相手がいてこその戦争だろ、
 まあこれで俺が入ったからには戦争は終わるけどな」
「…」
「終わらせるよ。高瀬先輩たちが苦しんできたの、俺知ってるしさ」
どうしよう、もしかしたらあのことも知ってるのかな。
イーストに入れる入れないじゃなく、僕は違うことが気がかりでならない。
「あの…不破君」
「翔吾でいいよ」
「その…日記読んでるって…」
「いろいろ分かってるよ、高瀬先輩が一ノ瀬先輩のこと好きだとか?
 天野先輩ともっとおしゃべりしたいなあとか?
 くまさんぎゅうぎゅうしたいなあとか?」
僕は突っ伏す。
とことん、突っ伏す。
「そうだ高瀬先輩、俺のこと翔吾って呼ぶんじゃさ、俺も先輩のこと旬って呼んでいい?」
「ああもう好きにしてください…」
「じゃあ好きにするね、ちなみにこれ、処理速度遅いから少し上げとくわ」
「あーあー、いじらないでくださいー!」
「大丈夫大丈夫、壊しはしないよ」
そういうわけで、イーストの主砲と補佐の能力値が少しアップしました。
聞いてよくまさん…。

バカオタ篇其の1

とにかくふたりの出逢いを、と書いてみました、少しだけ。
これから戦闘が激化していく中で、
一番デレデレいちゃいちゃするんじゃないかな、このふたり。
旬ちゃんがどれだけ人間性壊されるかを楽しみにしてくださいね!
そして、翔吾がどれだけ機械馬鹿なのかも、
AI登場によって分かると思いますので、
お楽しみにー!
時々橘とか一ノ瀬とか出ます。天野君と猪瀬君も出てきますよ!

バカオタ篇其の1

情報科学部主席生徒、高瀬旬。 高等部2年で、放送部所属。 部活動においては、式典すべての司会進行を任され、 その声の良さに生徒全員が魅了されている。 増して、声の良さに加えて人当たりがとても良い。 常に丁寧な話し方で態度も温厚。 そんな彼が唯一自分を崩してしまう相手が、 今、現れる。

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