不機嫌な曇空
久々に訪れた場所 朧げに思いだす 嘘だ此処に来るといだって鮮明に思い出す
運転席に座る もう居ない君の腕に思いっきり噛み付いて 静止を叫ぶ声も無視して噛むのをやめず 君が子供の様に泣いたのが 腹の底から面白くて 助手席の私は馬鹿みたいに大笑いして 笑い疲れて寝た
今でも 噛み付いた歯が食い込んだ君の皮膚の感触
舌が感じた肌の塩味 悲痛な君の懇願する叫び 私が抱いた高揚感も全て思い出せる
側から見ればイカレた行為だが 私にとってはそれは好意を示す行為だった だからきっと私は同じ様に噛み付かれたかったんだと 思い出して浸っていたい高揚感も 渇望に似た喪失感に変わる 出掛けたくなる程の爽やかな晴天が雨降り出しそうな曇空に移り変わる様に
あの日のも不機嫌な曇空だった
不機嫌な曇空