まるいボール
まるいボール、
受け入れなきゃ。
ぐっと口まで運んだら意を決して飲み込むか、飲み込まないか。
そんなところでずっと、迷っていたら、
誰かが横をすっと通り過ぎた。
フワッと冬の匂いがして、わたしは思わず振り返った。
きれいな髪を靡かせて、キラキラと光るカケラを振り撒きながら、
その後ろ姿にわたしはうっとり見惚れた。
はっと気づくと、まるいボールはどこかへ逃げてって、おいかけた先には、
あなたがそのボールを持って立っていた。
「はやく、飲み込まないと、わたしいなくなっちゃうよ?」
慌てて手に取ったまるいボールはすこし汗をかいていて、飲み込むには少し賞味期限が切れたと思った。
「ほら、はやく」
手が震えて、汗が滲む。
「わたし、消えちゃうよ」
あなたのその一言で、わたしは思いっきり勇気をだしてまるいボールを飲み込んだ。
消えかかってたあなたは、再び輪郭を取り戻した。
「良かった、ね。言ったでしょ」
ふふと嬉しそうに微笑むあなたを、わたしはだいすきだと思った。
「ところでさ、まるいボールって?」
「へ?」
少し馬鹿にしたように笑うあなたを、愛おしく思った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
何かを手に入れるには、それを受け入れなきゃいけない。
わたしが、わたしから。
たとえそれが苦しいことであっても。
まるいボール