廃線のメロディ



 廃線を歩いて二人で歌う。ボクが出会ったことがないあの人の歌。小さい時、映画で観たワンシーンを象徴すると言われる歌。買ったギターで初めて弾けたあの人のワンフレーズは、聴けば皆んなが懐かしいと微笑む。あると言われた死体を探しに行った四人について行って、帰って来なかったあの人を、あの人に近い人達で歌って涙する。木で作られた楽器が響かせる思い出の歌。知らない雑草がたくさん生えて、片方が無いレールが錆びている。地面を歩くキツネたちに、ぴぴぴと鳴いて飛んでいく鳥たちが映る。ピクニック気分のボクを認めて、若返ったお爺ちゃんが楽しそうに注意する。いけないことはいけない。悪いことが首を縮こませる。当たり前の事が通用した世界が映写機に回されて、元に戻らず終わりに向かう。ボクは、大好きなあの子の名前を教えて、お爺ちゃんに少しのアドバイスを貰えた。ブリッジに手が届かなくて、使えるメロディが少なかった頃から、歌うことを止めなかったお爺ちゃんの知識と経験は、心射止めるフレーズのコツを外さないんだよって。あの人からずっと続く長い長いレールのここ、大きな岩が寝転がって平たいステージを作る。ジーパンが似合う年頃になった時、ボクがここで歌うから。
 そばにいたっていいのだから。
 洗った履き物にスニーカーと名前を付けて、裸足のボクが動いて走る。



 タイムスリップでもない、タイムリープ?いずれにしても、明日には戻れない。
 実に面白い映画だったと微笑み合った。脚本がイイねと褒め合って、ボタンを押し合った。配信サービスを利用しようとして、思い付きにその動きを止めた。歩けば十分もしない所にあるCDショップに向かおうと、アバターを動かして操作した。二人で歩いて、微笑み合う。歩いて行くこの街は特別なイベントの真っ最中で、ジェイソンというマスクを被ったニセモノの中から、本物の殺人鬼を探す隠れん坊に参加しているユーザーで賑わっている。本物に出会ったときにどうなるんだろうねって別アカウントのコメントでイシシと笑った。『チキチキマシーン猛レーズ』。ただいま絶賛ハマりまくりのワンフレーズ。アバターが尻尾を振って、ほらほら上機嫌に見えるんだぜって。
 そうして無事に着いたCDショップのドアが真っ二つに割れて、中に入って、お目当てのバンドを探しにエスカレーターを上がった先、やっぱり合ったよ特集コーナー。昨日を歌った曲を探して二人、きらめく演出に包まれる幸せ。レジの店員さんが神様の遣い。
 暫くして、届いたデータを焼き付けた。出来上がった一枚には、劇中の曲たちが詰まっていた。歌う人が違っても、歌の素晴らしさが伝わる四半世紀。恋に終わりはないんだってさ。彼が素敵に歌っているよ。
 アバターのお尻を振って。



 レコードに針を落とした記憶の中で、だけど流れた曲が見当たらなかった。
 レコーダーはあったのに、回るものが家の中に無かったのだ。
 時代はCDが発売される前のこと、セルで出来た赤い円盤が雑誌の付録にあった。これをレコーダーに乗せたこともあったはず。もちろん、何も鳴らなかった。
 建築家の名で歌う女性に、お兄さんがいることを知ったのはだいぶ後のことだ。カブトムシの名前のバンドのCDを試聴して、買って帰って聴き込んだ年頃のこと。
 悲劇で語られる終わりより、歌い切っている彼女の瑞々しさに心惹かれて、女性の歌い手から入っていった趣味の音楽。歌詞を自分で描いて歌うタイムリーな三人組にたどり着いて、ラジオも聴いて、真似して歌った。
 甘酸っぱい思い出がキラキラと描かれるものより、余す所なく切なさを教える名曲の数々のせいで、好みの方向性が今も変わらない。楽しく一緒に踊るのも好きだけど、一緒に座り込んで悲しみを飲みたい。浮かび上がるあの夏の花火を好きになって、夏の暑さにチリチリしたい。ぽとって落として、何も言わずに友達になりたい。遠距離に阻まれて、電話口で黙ったりして。
 お下がりのCDプレイヤーのアンテナを立て、つまみをしぼる力加減。手紙の続きを書く前にした。意識しない、私の作業。


 『イエスタデイ』は、好きになった映画の一つになった。軽口を叩く、新しい彼よりもずっと。
 

廃線のメロディ

廃線のメロディ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-12-21

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