love?

らっきょ太郎

「 loveの意味を知ったのは何時?」と聞かれた。
「僕は覚えていない」と言った。
「どうして?」
 彼女の質問に僕は答えた。
「習ったのか教えてもらったのか。覚えていなんだ」
「学校で習ったとかは?」
「さあね。僕は何時も教科書のページを捲って四コマ漫画を描いていた。その所為で授業の内容なんて一度も関心を示したことがない」
「だけど、貴方はそれほどバカじゃないわ。ほどほどにバカだけど」
「ほどほどにバカじゃなかったら今頃は宇宙飛行士になっている。こんな地上で酒なんて飲んでいないさ」
 彼女は笑って「それもそうね。でも、もう少し頭がよかったら、こんなバーで私の顔なんて見ないで、スペースシャトルの中で青い星を見下げながらアルコールを飲んでいたかもしれないわ」そう言うと彼女はグラスに注がれた液体を一口飲んだ。
「ははっ。そっちの方が言い」
「あら。そこは少し、低い声のトーンと真面目な表情を作って『キミの方が青い星よりも価値がある』って言うべきシーンよ」
「そのセリフは僕の財布に一円も入っていない時に使うよ。あいにく今日は万札が数枚入っているんでね」
「つまり、私に奢らせたい時に使うセリフって事? ロマンスのかけらもない奴」
 僕1人薄く笑ってグラスに手を伸ばす。それから彼女に質問した。
「さっきの質問を君にするけど。君はいつ知った? LOVEの意味?」
 彼女はふふっと笑い「意味って言葉的な意味で? それとも感情的? または肉体的な意味?」と言う。
「なんでもいいよ」
 僕はため息を吐いて言った。
「面白くない奴ね。少しは興味がある振りをしなさいよ。普通の男だったら食いついて来る瞬間よ」
「普通の女だったらこんな会話をしていない。例えばキューティクルを象徴するように、繊細に脆く、危なく。何処か断裂してるいんだ。そう、向こうに座っている流行りの髪型と流行りの服装をした女のようにさ。でも君の場合は少し捻じれているんだ。繊細と言っても一昔の単車のバイクのエンジンのように油臭い繊細さなんだ。つまり、何だか坊主頭のおっさんの要素を感じるんだ僕は」
「それは貴方の主観と差別的な思考が私の一面を切り取って拡大しているのよ。その話で言うと間違いなく私はキューティクルだわ」
「オーケー。なら倍率を下げよう。君は或る私立の教師で数学を教えている。とても真面目な顔でね。宿題も出すし、こまめに小テストもする。日中は学生に寄り道をしないで18時までには家に帰りなさいと言っているが、現在君は寄り道をしている。平日のこんな深夜まで酒を飲んでね。実に模範的な教師だ。そのアルコールは君の胃に注がれ肝臓を巡り最後はキューティクルるまで到達する。それで君の黒くて滑らかな髪は実質、98%のアルコールで出来ていると僕は断言する。で、君は結局、おっさんのキューティクルと大差はない」
「失礼な」
 彼女はそう言うと燻製のチーズを一枚取って舌に置いた。
「それで?」
「何?」
「それで、君の言うLOVEは何なんだ?」
 彼女は笑って「LOVEじゃなくて『love』よ」と答えた。
 僕は当惑した表情を作るが彼女はお構いなしに話し始めた。
「ねえ。貴方は何かを食わないと死ぬって誰かに習ったのかしら? 違うわ。本能よ。それでloveも本能って言うのかしら。確かに正解よ。でも不正解でもあるわ。私たちの細胞にはそこら辺のラットやマウス、犬猫、オニヒトデ、サイとかライオンとは違って取得し、育むモノがあるわけ。それは私たちの外面の膜だけを見ていると永遠に分からない事で、それだけを頼るなら腐っていくだけだと思うの。ええ。感情的にも肉体的にも精神的にも……それよりも深い底に沈んで掴み取る必要があるのよ。これが私のlove」
「それが答えなのか? 難しいな。僕には理解できないし、多分、これからも理解できない説明だと思う。それに、君1人で掴めるのそれ? そんな、とても深そうな場所に潜ったら溺れ死にそうだ」
「そう。だから2人じゃないと駄目なのよ」
 彼女は僕を見つめて言った。軽い沈黙が流れる。僕は目を細めて述べた。
「さては君、振られたな」
 彼女は答えた。
「ええそうよ」
 僕はため息を吐いた。
「唐突に連絡が来ると思えば、こんな戯言を聞きに僕はやって来たのか? 電話でとても大事な相談があるから来てくれって言うから、来てやったら、またこれかよ。もう何度目だ? あん? 僕は今月、凄く忙しいんだ。工期もヤバいってのに。女友だちでも誘えよ。このアホたれのバカちんのオタンコなす」 
 彼女は言った。
「私はLOVEじゃなくてloveが欲しいの!」
「知らんわ!」
 僕は大きな声で言った。
 周りにいる静かな客と店員がこっちを見る。彼らは嫌そうな表情だったので僕は謝るように会釈した。
 どうやら彼女は結構酔ってきているようだった。僕は彼女を担いでから「もう出るぞ。そうだな……。しめにあそこのチキンスープでも飲んで帰るか。まだやってるだろ」と言った。
 彼女は言った。
「Yellow Submarine並みに好きよ。よっちゃん……」
 そう言うと彼女は懐かしそうに鼻歌を唄った。そう。とても愛らしく。

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