独裁者の夜

らっきょ太郎

 私はグラスに氷を入れウイスキーを注ぎ。ソファーに座った。するとドアの向こうからノックが聞こえた。
「誰だ?」
「俺だよ」
 低い声だ。私は少し間を置いて電気を消した。
「入れ」
「言われなくても」
 そういってアイツが部屋に入って来た。
「お前も飲むか?」
「飲まん」
「ふん」
 アイツは俺の目の前に腰掛けた。姿は暗くてよく見えなかったが身長は高く、身体が細いのは分かった。
 ただ笑う際に、薄っすらと白い歯が浮かんでいる事は理解できた。
「どうだ?」
「何がだ?」
「最近は?」
「クソだ」
 アイツはククッと笑って「お前が欲しがったものだぞ? どうして何時も怒っているんだ?」と私に言った。
「黙れ」
 私は言った。
「1つの国、金、名声、権力、力。全ての人がお前に従順だ。何が不満なんだ」とアイツは愉快そうに言う。
 私はアイツの言葉を聞いて答えた。
「この前、私に反抗する女中がいた。私は最高の気分だった。私の言葉に対抗する人間はもう40年ぶりだったからな」
「へえ」
「初恋のような気分だった。泣いたね。感激で。もう全てを捨てて彼女に捧げても良いと思えた」
 そこで私は歯ぎしりをした。
「だが、後で分かったんだ。その女中は私の宦官が用意した女で私に反抗をするフリをしていたんだ。宦官が私に喜んで貰うためにね」
「はははっ、40年前はお前に対して見下す奴しかいなかったのに、そっちの方が良かったと思っているのか? 面白いな」
 私はウイスキーを飲んでから「すぐに気づいたさ。その人の意思でお前はゴミだ。と言われる方が幸せって事に」と答えた。
「結局、本当のお前を見てくれる奴は今も昔もいない。良いじゃないか。今の方がみんながお前を王様扱いしてくれるだろ?」
 私は黙った。長い沈黙が流れた後私は口をゆっくりと動かした。
「他の独裁者はどうなんだ?」
「何のことだ?」
「他の国の事だ。お前が操っているんだろ? どうせ」
「ククク。そろそろ死ぬお前だ。良いだろ。教えてやるぜ。殆どの奴らはこの状況を楽しんでいるよ。お前くらいさ。変に考えて真面目ぶっているのは」
「そうか……」
 私は再びグラスに口を付けた。
「で、さっきの女中はどうなったんだ?」
「知るかよ。しくったのを知って宦官が何処かに連れて行きやがった」
 アイツは言った。
「クズめ」

独裁者の夜

独裁者の夜

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