第8話―32

32

 ターミナズの光も次第に明るさを失い、漆黒が階段の先を支配し始める。

 臆する心のない、傲慢さが影を指すビザンの歩みは、止まることを知らない。

 逆に怯えと不安に心を掴まれたミザンは、兄の腕にしがみつく。こんなにくっついたのは、幼年期以来のことだ。

 暗闇で2人が1つの塊のように、足で確かめつつ遺跡を降りていくと、突然、光源のないはずの暗闇に光が走った。しかも視界を奪われる程の眩さである。

 白い光に2人のジェフフェ族が包まれた瞬間、兄妹はまるで足元の遺跡が一瞬でなくなったかのように、ふわり、と身体が浮かぶ感覚に陥ると、重力も水圧も失ってしまった。

 2人は完全に身体の感覚が失われたのである。

 時間感覚すら失われた2人がいったいどのくらいの時間、感覚を失っていたのか分からない。気づいた時、2人は冷たい床に素足をつけていることに気づき、水圧が身体に触れないことを気づいた。

 これは地上の種族が呼吸していないことに驚くほどのことである。水性生物が水のないところに立っているのだ。

 しだいにあのまばゆい輝きでくらんだ視界がうすぼんやりと回復してくると、お互いがそばに寄り添っているのを、感覚で理解した。

 はっきりと感覚も視界も戻った時、それは2人の前に凛然と中空に浮遊しているのを見て取った。

 まるで銀で作られた宮殿のようにどこまでも均等に続く太い柱。床も2人の姿を映すほど綺麗な銀で作られている。

 ミザンが上を見上げると天井はあまりに高く、光源のないはずなのに視界が開けている室内ですら見えないかった。

 ビザンが背後を見ると、部屋の先もあまりに広すぎて見えないのがわかった。

 そして2人の前に浮遊する巨大な、地球の単位で100メートルはある水の塊は、ただ表面を小さく波立てていた。

 それが何なのか、2人には理解できなかった。

『いつか運命を背負う者が来ることはわかっていた』

 銀色の宮殿に声が響いた。その声の出ているところがどこなのか、兄妹はすぐに理解した。目の前に浮遊する水の球体が言葉を発したのだ。

第8話-33へ続く

第8話―32

第8話―32

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-12-16

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