タイムリミット

タイムリミット

 帰郷後、一度だけ東京へ遊びに行った。
 一泊二日、詰められるだけ予定を入れた。
 過密スケジュールを無理なくこなすため、
ターミナルであり且つ使い慣れている新宿駅、
そこから徒歩圏内のビジネスホテルを予約。
 おかげで効率よく動くことができた。

 通った専門学校や勤めていた職場の訪問、久方ぶりの知人との会食。
 通学や通勤時、休日も使ったアパート最寄りの東中野駅にも立ち寄った。
 駅には大きく変わった点がひとつあった。
それはタクシープールが作られていたこと。
 僕が住んでいた当時、タクシーを探す際は大通りまで出る必要があった。
 便利になったものだと思うと共に、時の流れも実感した。

 東中野でタクシーといえば、今でも忘れられない思い出がある。
 
 在京時、年に数回の割合で母と妹が上京していた。
 目的は様々。母には学校の課題を手伝ってもらうため。
妹なら好きなバンドのライブを観るべく、等々。
 二人で来る場合、僕の近況確認と息抜き目的が多かった。
 
 足は決まって夜行バス。
 到着時は早朝お出迎え。
 帰りは乗り込むところまで見届ける。
 今ではバスタができ、どこ行きも乗り場は一緒。
だがそれ以前は、同じ新宿でもポイントが散らばっていた。
 僕らの故郷行きは髙島屋近く、南口から歩いて10分程の場所。

 その日もバスの時間が近づいていた。
 余裕を持ってアパートを出て東中野駅まで歩き、
各駅停車の中央線に乗り新宿駅へと向かう。
 
 駅に着いてホームへと降りた。
 するとすでに電車が到着している。
おかしい。
 目的の便はもう少し後のはず。
 車両は一向に動く気配を見せない。
乗客の様子は焦れたようにも見える。
 これってもしかして……

 顔を上げ、電光掲示板を見る。
嫌な予感は的中、遅延だ。ダイヤが乱れている。
 すぐに運転手に運転再開の目途を尋ねる。
現状未定とのこと、最悪の事態だ。
 いくら早めに出てきたとはいえ、
このままでは間違いなくバスの時間が過ぎてしまう。
 実家までの高速バスは一日一本、逃せば明日のこの時間まで待たねばならない。
往復で買ったチケット、その帰りの分が無駄となり新たな出費を強いられる。

 二人を連れホームを急いで後にする。
 駅員に事情を話し改札を抜け、駅の外へと小走りで向かう。
 大通り沿いまでたどり着くと、
タクシーをつかまえるべく闇に目を凝らした。
 甲州街道に連なる道とはいえ、頻繁に通るとは限らない。
 不安そうな二人を背に、必死の思いで僕は手を上げた。

 本当に運がよかった。
 間もなくして一台のタクシーが止まった。
急いで二人を後部座席に押し込む。
 タクシーは勢いよく飛び出していった。
 
 このまま立っているのも何なので、
一旦アパートまで戻ることにした。
 部屋に着きしばらくするとメール着信。
 送り主は母。恐る恐る画面を開く。
 間に合ったとのこと。
安どのため息が出て、肩の力が下りた。

 翌日母に話を聞いてみたところ、
事情を聞いた運転手は近道を選び、
猛スピードで駅まで向かってくれたらしい。
 結果、短時間で南口へ着くことができ、
お釣り不要で支払いを済ませると、二人はひた走った。
 緊急事態に動揺する妹を母がリードし、
ギリギリ出発5分前、バス乗り場に到着したそうだ。

時を経た今では、あのドタバタも良い思い出へと変わっている。

タイムリミット

タイムリミット

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-12-15

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