メシア篇其の5

これちかうじょう

  1. 探す世界
  2. 探される世界
  3. 第六感
  4. 略奪者

交換日記が途絶えた。
僕はその真相を知りたいと思う。
だってまだ大地のことをよく知れてないし、
それより何より、
僕は何故か君を意識しているのかも知れないし。

探す世界

城善寺の件(例の事件)に関して、僕は無罪放免といったところか。
当の本人は、
「天野は友達だよ」
と普通に言い放ったし。
「でも逆に感謝してるんだ、悟が元に戻ったし、俺はそれでなあなあにしてもいいんだ」
「…藤堂は戻ったけれど、」
「ごめんな、生徒会ではお前に冷たいだろー。でもそれは今まで俺にちょっかい出してたのと、
 怪我させられた変な感情みたいなのがごっちゃになってるだけなんだ。
 本当は悟って優しいんだぜ」
いや、そうは思わない。
カリスマ性というものは能力として彼にあるとは思っている。
現に1年の時から生徒会長に任命されたわけだし、
でもその前に生徒会は正常に機能していなかった。
長年、生徒会長も生徒会副会長も不在だったのだ。
それを1年の時から立て直してきたのは、僕と藤堂である。
今は橘が入ってくれたので少しは楽できるけれど、
でもまだまだ僕の仕事は多い(藤堂に振られる)。

6月1日、夏服にチェンジということで、生徒監査が行われた。
1年生担当の僕の前に、大地はいなかった。
あんなに楽しそうにしてたのに、どこかに行こうとか、言っていたのに。

「…柳瀬橋、ちょっといいかな」
保健室登校を続けている柳瀬橋のもとを訪れる。
「あ、天野先輩だ、こんにちはー」
「君は大地と仲が良かったよね、同じ保健室仲間として」
「はい」
きらきらしてる、と大地はよく言っていた。
確かに、藤原ほどではないけれど、柳瀬橋は美人系だ。
「でもおっかしいんですよねえ、昨日はテストだからって教室へ行ったのは見送ったんですけど、
 今日は朝来てすぐに帰っちゃって」
「帰ったんだ」
「すごく顔色悪かったですよ、薬ちゃんと飲んだのかって聞いたんですけど、
 なんか、こう、心ここにあらずーみたいな」
「…そう」
「でも俺思うんですよ、猪瀬って身体的な病気じゃないって。だから病名聞いたんです」
病名はさすがに僕は知らなかったな。
「統合失調症って言うんですって。何だか難しい話なんで、俺、ついてけなかったです」
「統合失調症…」
「症状的には?声が聞こえたり、ああしろこうしろって命令されたり?そういうのなんだってのは、
 理解はできたんですけど、たまにわーっと虫がよじ登ってくるとか、
 なんか、俺とは全然違うなあって」
「ありがとう、もう柳瀬橋は病院だろう」
「はい、もうすぐ迎えが来ます。その前に中村が来てくれるんですけど」
「本当に仲がいいね、中村と君は」
「親友ですから」
そう言って笑う柳瀬橋は、まあ、確かにきらきらはしているなあと僕も思った。
早退しちゃったってことは、相当、具合が悪かったんだろう。
今日は雨じゃないし。
「探してみるか」
好きになってもらいたいと書いてあった。
僕はまだそれに追いつけないけれど、
でも、追いつこうとしている自分もいることを、
僕は否定できない。

探される世界

「…」
天井がぐるぐる回る。
空を見ているようでいいでしょう、と親が天井を青空にした。
中等部に入ってすぐに、こうなった。
「…」
呼ばない。
呼んだら来ちゃう気がするから。
ベッドに仰向けになって、俺はただただ天井を見上げている。
病院、行こうかな。
俺の場合、急患扱いということもしてもらえるから、
行けばすぐに病院を開けてもらえる。
注射をすれば少しは楽になるかな。
でも、その前に、冬馬にもらったあれ、飲んじゃったしなあ。
全然元気にならない。
というか、頭がぐるぐるする。
「…あ」
メールだ、と携帯が震えるのを見る。
「…」
やた、とにやける。
柳瀬橋だ。メルアド教えておいてよかった、何だか嬉しいな。

『猪瀬、天野先輩が心配してたぞー。お前からも連絡してやれよー、彼氏なんだろー』

そう、柳瀬橋にはいろいろ本音で話している。
俺が彼氏で、真咲が彼女。
って笑い話で言ったこと、柳瀬橋は本気で考えてくれてんだ。
嬉しいな。

「ちーがーうー、俺は飼い主なんだってばー」

と意味不明な返信。
とまた、すぐに返信。

『え、天野先輩、犬!?』

「そーなの、呼ぶとすぐ来ちゃうの、だから呼ばないの、俺、彼氏だから」

『お前、意味不明!俺もう学校出るから電源切るからなー、ちゃんと好きだって言ってやれよー!』

「りょーかい」

柳瀬橋はリハビリで頑張っている。
きっと俺にもそういうのが必要なんだろう。
でも、そういう時に自分がひとりだって思い知るのは何だか切ない。
隣に誰かいて欲しい。
それを真咲に、と求めるのは我儘だろうか?
それとも、傲慢だろうか?

「…真咲…」
ごめん、ごめん、ごめん。
逢いたいけど、その前に、憎しみの連鎖が俺を邪魔するんだ。
あの日のことを思い出すと、どうしても真咲を許せない。
しかもそのことを真咲は何も感じてない。
考えてもいない。
気付いてないとか言ったら殺してやりたい。
今の俺がこんななのは、真咲のせいなのに。
「あ、呼んじゃった」
だらだらと涙が流れる。
泣けと言われる。
泣くなと言われる。
立ち上がって、窓を開けて、そこから飛び降りろと言われる。
でも俺は首を横に振る。
違う、それは俺がしたいことじゃない。
真咲と、恋がしたい。
俺がしたいのは、恋だ。
キスだって俺からじゃなくて、真咲からして欲しい。
その先のことも、ちゃんとしたい。
だから、頑張ってるのに。
それを認めてもらえないのが、気にしてももらえないのが、本当につらい。

ねえ、捜して、真咲。
俺、此処に居るよ?

第六感

救世主みたいでしょ、と笑いながらそんなことを言った。
僕には第六感がある。
これは親譲りなもので、
あの人がそろそろお産になるなとか、
そろそろあの人が逆子が元に戻るなとか、
そういう予感めいたものなんだけれど、
僕にとっては、大地が僕を呼ぶ声、に反応できるという能力である。
「…あ」

昼過ぎ、午後一番に呼ばれた気がした。
放課後まで待てないという気がした。
だから、体育の授業というのを利用して、
(長距離走の授業だった)
僕は門の外に出た。

「…そうは離れてない」
一度だけだったので気にも留めないことを感づいていたのか、
それとも、呼びたくない気持ちがあるのか。
「…あっちかな」
だいたいの目星をつけて、僕は校庭に戻った。
「…」
呼ばれたのは、一度だけだ。

放課後。
僕は生徒会を休んでバスに乗った。
いつもは駅までバスに乗るんだけれど、停留所を1個前、のところで降りる。
この辺かな。

「…」
観葉植物が多い地域だなと思う。
新興住宅地というか。
「…ここだ」
猪瀬、と表札が出ている。
家、教わってなかったのに来れちゃったよ。

「…寝てるかな」
それでも、と僕はインターフォンを鳴らす。
「天野といいます」
親がいるもんだと思ったんだけれど、そうだった、共働きだとか書いてあった。
「…大地、ごめん、来ちゃった」
ドアの前でそう言うと、思いきりドアが開いて、僕はドアに顔をぶつけてしまった。
「いたたたた…」
「ま、真咲なの?」
「…ごめん、来ちゃった」
何で家が分かったの、と大地がびっくりしている。
「俺、一回しか呼んでないのに」
「その一回が今を作ってるんじゃないのかな」
「すげえ、すげえよ、本当に犬みたい」
「それはひどい言い方だな」
顔色はそんなに悪くはない。
ただ、何だか不安要素。
「…大地、部屋に上げて」
「え、何で」
「ちょっと確認したいことがあるんだ」
「やだ、駄目だよ、恥ずかしいもん」
「そういう意味合いじゃないよ」
これも、第六感。

「…」
ごみ箱に手を突っ込む。
というのは本当に嫌なんだけど、でも仕方がない。
「…大地、これ、いつもの薬じゃないね」
「…」
「大地が飲んでるのは液剤じゃないの。でもこれはソフトカプセルのフィルムだよね」
「…それは」
「うん」
「…もらいもん」
「もらいもの?」
いつ飲んだの?と聞いてみる。
「昨日の、夕方」
「じゃあもう半減期は過ぎてるか…でもほら、足取りが不安定だよね」
「…だからさ、それはどうでもいいじゃん」
「分かってて飲んでるんだ?これ、覚せい剤とか、そういうものだよね」
「…」
違う、と大地は首を横に振る。
「ちょっと元気が出ないときに飲む薬だって、冬馬が」
「冬馬?…古関先生のこと?」
「違う、その、」
「大地」
「違うって!」
僕は大地の両肩を掴む。
線が細いとは思ってたけど、ここまで痩せてたなんて。
「もうやめるんだ、分かった?」
「…うん」
「本当に分かった?」
「…」
「分からないなら、僕が古関先生に言ってあげる。というか、古関先生の地位が危うくなるだろうけど」
「…真咲」
「なに」
「俺のこと、嫌い?」
「は?」
いきなり何、と僕は苦笑する。
「嫌い?」
「…分からないかな、嫌いだったらここまでしないと思うけど」
「じゃあ好き?」
「それもまだ分からないけど、でも、努力はしようと思うけど」
「…真咲」
好きになる努力をするつもりではいる。
そして、
「俺、真咲を好きになれない理由がないわけじゃない」
と重複する否定形。
「でもそれを真咲は覚えてないみたい、知らないみたい、本当に何も心当たりがない?」
「…いつの話」
「中等部時代」
「具体的には」
「俺が中学二年で、真咲が三年生」
何かあったっけ?というか、話、逸らされてない?
「ごめん、何も覚えてない。でも、もうこんなのに頼っちゃ駄目だ。
 今から病院行く?薬が切れればひどい副作用が出るよ」
「…そっか、覚えてないか」
「大地?」
「もういい、帰れ、俺は寝る、寝てれば治る」
「大地」
「お前なんか知らない、もうこりごりだよ、交換日記なんかしなければよかった、
 すんげえ楽しかったのに、俺、あれが楽しかったのに、
 でももういい、終わりだ、サヨナラだよ真咲」

略奪者

「サヨナラしよう、真咲」
終わりだと言う。
何度も、それを自分に言い聞かせる。
「俺、このままだと真咲の全部奪っちゃう気がする。それは嫌だ。
 それの前に、お別れしたい」
「別れるも何も」
「そうだよ、付き合ってもいないよ。でも、俺はそのつもりでいたんだ。
 だから交換日記も真剣に書いてた。真咲に俺のこと知って欲しかったから、
 でも本当のこと知ったら幻滅しただろ?
 薬やってただなんて、そんなこと知って、残念に思っただろ?
 それでいいんだ、終わりってそんなもんだ。
 始まってもなかったけど、終わりにしようよ、ね、真咲」
涙が流れる。
泣けとは言われていない。
ただ、心の底から涙が出るんだ。
「ありがとう、今まで交換日記付き合ってくれて。俺、ちょっとの間だったけど、
 すげえ楽しかった、嬉しかった」
「…」
「もうあれ、燃やすから。びりびりに破いて捨てるから。ごめんな、俺の我儘に付き合ってもらって、
 なのに俺からばいばいだなんて、本当に、ごめん」
もっと、続けたかった。
あの日のことを思い出せば、真咲のことは憎らしい。
でも、それ以上に、食べ方が汚いところとか、俺が発見した真咲の一部が、
俺の全てだった。
「ごめん、ごめん」
「…大地」
「だから帰って、もう、俺に構わないで」
「とても綺麗だ」
真咲の指が俺の目をなぞる。
「これが本当の大地なんだよね?」
「…何、」
「うん、分かった、多分、僕は今、君に恋してるんだ」
ぎゅうと抱きしめられる。
「交換日記じゃ知れなかったこと、たくさんあったけど、今こうして本当の君を知れて嬉しかった。
 それは、君を好きだってことに違いがないと思うんだ。
 お願いだよ大地、もう少し交換日記、続けよう?」
「もう少し…?」
「うん、それで、僕が思い出せないことを、思い出すまででもいい、本気で恋を始めよう」
そんなこと到底、叶わないと思っていた。
友達もいないし、それ以上に、恋人なんてできないと、俺は諦めていた。
「僕で良ければ、君の彼女にしてくれないかな」
「な、何で真咲が彼女なの」
「名前負け。大地の方がかっこいいから、彼氏」
「あ、あはは、何それ」
もうちょっと背が高かったらなと思う。
俺はまだ、158センチしかない。
「キスしていいかな」
「…うん、して」
心が浮かぶような気がする。
あんなに具合が悪かったのに、心が歌うように息づいていく。
泣けとは言われてない。
笑うなとも言われてない。
でも、無性に笑いたい。
笑うっていうか、微笑みみたいなのを、俺は真咲に向けたい。
「すごく、可愛い」
大好きな風景や、大好きな明け暮れを、あなたと探したい。
そして、あなたを見上げたい。
大事にする。
今のこの気持ちが、嘘じゃないことを、
憎い気持ちが少し薄れた今を、ずっと覚えている。

メシア篇其の5

とうとう真咲が大地に恋をしました。
これはこれで長かったというか、
やっとかよという作者のため息交じりのあとがきです。
結と違って思ったことをばんばん言ってくれる真咲なので、
結構台詞を考えている時は恥ずかしいです。
頭がいい人って、ストレートですよね。
そして再開される交換日記。
内容もこれまで以上に、濃密になります…。
乞うご期待。

メシア篇其の5

交換日記が途絶えた。 僕はその真相を知りたいと思う。 だってまだ大地のことをよく知れてないし、 それより何より、 僕は何故か君を意識しているのかも知れないし。

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