仮面夫婦

らっきょ太郎

 中学の同級生からの招待で僕は結婚式に参加する事になった。まさか新郎新婦が中学からの付き合いで見事にゴールインするとは予想だにしていなかった。僕自身、2人に合うのはとても久しぶりだったのでワクワクする気持ちも強かった。それで今日は会社を休み招待状の案内に従って足を運んでいた。場所は地元だった。
 だが僕はそこに到着すると唖然とした。空き地だったからだ。端っこに粗大ごみと砂利が積まれているだけで式場どころか原っぱだった。携帯に打ち込んだ住所が間違っていたのかと何度も招待状と確認したが同じ番地である。変な脂汗が出てきた所で、僕の背後に物凄い自動車のブレーキ音と共にスーツの男が降りてきた。僕は恐ろしい表情をした所で男たちは僕の身体をわしづかみにし、黒い布の袋を僕の頭に無理矢理かぶせた。僕は激しく抵抗したが無に等しく、手も紐で縛られて車の中に追いやられた。それから運転手はアクセルを強く踏み込んで車は発進した。
 山道を走っているのか、道路の状態は悪いらしく何度も振動が伝わってくる。この状況から何時間か経過していた。もちろん、僕の体感だから、正確ではないにせよ明らかに長いドライブだった。けれども、その目隠しドライブも終焉を向かえた。車は停車して僕は男に手を握られ降りた。男は腕の紐を解いてからも手を握っていた。それから黒い布の袋は頭に被ったままで歩かされた。土の上を歩いた感触から建物の中に移り、その後は階段やエレベーターらしき中にも入り、絨毯の上を歩いた。それから重たそうな扉が開いた音がした。その中でも僕は男に引っ張られながら歩き椅子に座らされた。それからようやく黒い布の袋を取ってもらえた。
 まぶしいかと思ったがぼんやりと明るい光だけが僕を待っていた。シャンデリアのあるヨーロッパとかにありそうな洋風の城の中のような場所に僕は居た。長い四角のテーブルが幾つもあった。僕の目の前には丁寧に皿とコップとナイフとフォークが並んでいた。皿の前には蝋燭が灯されている。なんだこれ? そう思った時、僕の座っている横から「お前、中学の時、同じクラスだった奴だろ?」と言われた。
 声の主を見ると確かに見覚えがある顔だった。
「ああそうだ」
 僕は答えた。
「すごいよな。あいつらどんなけ金持ちなんだよ。こんな洋館で式をあげるなんて。勝ち組ってことだよな!」
 彼は目をキラキラとさせて言った。だが僕は不思議に思って質問した。
「なあ。此処怖くないか?」
「どうして?」
 彼は拍子抜けした口調で言った。
「だって此処に来る前、変な空き地に集合させられて、男たちに拉致られたんだ。黒い袋を顔にかけられて、それから車に無理やり乗せられてさ。ホント意味わかんない」
「は? 何だそれ? 俺は普通にレンタカーに乗ってきたぞ?」
「なっ……」僕は心臓が止まりそうになった。そう、拉致された瞬間よりも怖くなった。震えた。僕の想像という核は吹き飛ばされたからだ。それからまた聞いた。
「な、なあ。此処から帰りたくなったんだけど。歩いて帰れるか?」
「歩いて帰るだって? 無理だろ。俺も車を飛ばして2時間だったんだぞ。山だぞ。クマとかも出るし、遭難する気か?」
 彼は続けて言った。
「一応、この式が終わったら皆、部屋が割り当てられているから泊まり出しな。急いで帰れないぞ。多分」
「嘘だろ」
 彼は僕が冗談を言っていると思ったようで「テンションが上がりすぎておかしくなっているんだろ? お前さ? それよりも、お前どんな仮面を持ってきた?」
「仮面?」
「ああ仮面さ。招待状に書いてあっただろ? 仮面舞踏会風の披露宴だって。仮面は各自で持参くださいとか。俺さ、めっちゃ乗り気になって、凄い気合を入れて来たんだ。普通の結婚式に飽きていたんだよねー」
「知らない」
「は?」
「知らないよ。そんな事。僕の貰った招待状にはそんな事、何も書いていない」
「嘘つけ」
「ホントだって」
 彼は僕をジッと見てから「よく知らないけど俺の仮面を1つ貸すぜ。雰囲気で仮面の種類を変えようと思っていろんな種類の仮面を持ってきているんだ」と言って僕に洋風の仮面を手に渡した。
「……。ありがと」
「いいって事よ。だが人はまだ来てないよな。俺とお前しかいないし」
「うん。そうだね」
 彼はそう言って仮面を付けた。青い洋風の仮面だった。それに続いて僕も仮面を付けた。すると扉が開いて幾人かの招かれた客が入ってきた。僕はその客たちを見た。みんな仮面をしていた。よく仮面を見るとどこぞのスーパーで売られている安物ではなかった。非常に高価なものに感じた。それとスーツかドレスか。その違いでしか、男か女か判別できなかった。それとみんな慣れた様子で歩き談笑し、テーブルの席に座っていく。僕は完全に部外者の気持ちになった。
 隣にいる彼に声をかけようとするがいつの間にか居なくなっていた。青い仮面を付けた男を探したがどこにもいない。
 席を立つ気力もなく。ボーとしていると。他の客たちは自然に席に座った。と、仮面を僕に渡してくれた彼も隣に座った。彼は無言でフォークとナイフを撫でた。みんな一言も喋らなかった。そうしている内に辺りは暗くなりオーケストラが奏でる曲が鳴った。その曲が大きくなった時、大きな扉が開いた。みんな拍手をした。僕も真似をして拍手をした。新郎新婦が入場した。僕は懐かしい同級生の顔を見ようとした。しかし、2人の顔には笑みや幸福の表情の変わりに仮面を付けていた。二人は腕を組んで歩いていた。手を振り歩いている。
 僕の隣に座っている彼は「これがまさに仮面夫婦……」と言う。当たり前だが誰も聞いちゃいない。それに加えて僕の忍耐は限度を超えていた。
 披露宴はスムーズに進行していた。だが僕自身がこの式がスムーズなのかどうか分からなかったが……。ボーイが肉や魚、野菜、スープなどのご馳走を運んでくる。ボーイの顔を見ると白い仮面をしていた。ウィスキーと赤ワインをグラスに注ぐが、全く、飲む気がしない。そうして僕は親指をぐるぐると回して新郎新婦を見ていた。
 その時、灰色の仮面を付けた司会者がマイクに向かって言った。
「ではここで新郎新婦のご友人挨拶を行いたいと思います」
 拍手が起こる。
「飯島カオルさん。新郎新婦の方へどうぞ」
 僕は目は開き瞳孔は裂かれた。
「おいおい、お前、挨拶すんのかよ」
「し、知らない。こんなの知らない」
「うるさいなー。緊張してんのかよ。早く行けよ」
 僕は肺から血を噴き出す気持ちで息を吐いて席を立ち、新郎新婦が座っている席に向かった。新郎新婦の横にあるマイクの前に立ち僕は言葉が出ずに突っ立っていた。
 そうしていると新郎が席から立って僕の方にあるマイクを取り喋った。無機質な声で隙間風からの音のようだった。
「ありがとう。君のおかげで僕たちは結婚する事ができるよ」
 僕は思わず「は?」と言った。
 すると新婦も席から立ち上がってから僕に言った。
「私も感謝しているわ。貴方のおかげで結婚できる事に」
「僕のおかげだって? そんなの知らない。僕は何もしていない」
「いや君のおかげさ。間違いなく。そうだね。説明するとね。15年前、僕たちは君と出会っているんだ。ちょっと田舎の中学校で。でさ。君は凄いいじめっ子だったんだ。僕も彼女もいろんな奴がいじめられていたんだ。それに君は凄く勉強も出来たから先生にも好かれていたしね。誰も文句を言えなかった。そんな或る日、学園祭が行われたんだ。体育館で。で、夜のイベントがあってね。学生たちしか出席して居なかったんだ。それで君は無理矢理僕に彼女に無理やり告白させたんだ。彼女に。僕は彼女が好きだったし彼女の笑う顔も好きだった。でもとても嫌だったよ。生徒全員で中傷する為に君がさせているからね。でも彼女はオーケーをしてくれたんだ。驚いたし嬉しかった。しかし君は全然嬉しくなかった。だから学園祭で使用していたプロパンガスを体育館で放出させた。多分、君は少しボヤを起こして嫌がらせをしようと思ったんだろう。体育館は閉め切っていた。ガスは君の予想以上に溜まっていた。君が擦ったマッチで引火。大爆発が起きた。君は吹き飛ばされガラスを割り体育館の外に出て縁石に後頭部をぶつけた。で、無傷で記憶喪失。別の県の中学に転校しましたとさ」
「知らない。僕はそんな田舎の中学に通っていた事なんてないぞ」
 新郎は僕の言葉を無視して会話を続けた。新婦はシクシクと泣いている声を漏らした。
「ははは、そんなの知らないよ。君の所為で僕と彼女は全身に大やけどを負ったのさ。死ぬほど痛かったよ。でもそれによって絆は深まったかな。お互い隣のベッドにいたし、一緒にリハビリとかしたし。あ、そうそう、ついでに言うとね。此処に居る皆も君によって大やけどを負ったんだよ。ほら見てだから皆、仮面をしているんだ」
 僕は辺りを見渡した。仮面を被った客たちは呼吸の音を1つせずにこっちを見ていた。
「嘘だ!」
 僕は叫んだ。
「黙ってよ。で、見てくれよ。これでも結構完治したんだ」
 そう言うと新郎は仮面を外した。僕は目を反らした。
「それが何の証拠になるんだ? なら、僕の隣に座っていたあいつは間違いなく中学の同級生だ。あいつが知っているだろ。僕は昔からその中学に通っていた」
「確かに君が通っていた時の同級生だけど、それは君の転校先の中学さ。彼には報奨金を渡して雇ったんだ。もしもの時の為の安全要素でね」
 僕は言葉を返さなかった。自分にはない記憶。それを憎悪した。
「それで、どうするんだ。僕を……」
 そう呟いた時、仮面を付けた司会者が叫んだ「ケーキの入刀となります!!」その声が響いたと同時に客は席を立ち上がった。新郎は無言で仮面を付けなおした。
 僕は震える声で言った。
「ぼ、ぼくは、何もわるくない」
 新郎は答えた。
「だーめ」

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