君は知っている。隕石の故郷。

らっきょ太郎

 クラスの奴が隕石を拾ったと言っていた。夏休み明けの事だった。教室にいたクラスメイトの大半は騒がしい声を放って、見せろ、見せろと奴の周囲に集まっていた。僕はチラリと奴が座っている席を見た。奴は実に鼻高々な表情でその隕石を右手で持ち、大切そうに撫でて説明していた。しかし僕からするとその隕石は校庭で落ちている平凡な石ころと大差がなく、実際、適当にそこらへんの道で拾ってきたと思った。嘘だ。奴は嘘を付いている。隕石がそこらへんの近所に落っこちているわけがない。だって僕は映画で見たことがある。隕石が落ちたら街は消滅するし、他のストーリーでは地球だって消滅している。本物の隕石だったら僕たちが住んでいる何処かの場所に大きな穴ぼこがあいている筈だ。
「お前は見に行かないのか? あいつ隕石を拾ったらしいよ」
 クラスメイトの1人が僕に言った。
「見るかよ。絶対に偽物さ」
 僕は答えた。
「でもあいつ本物って言ってた」
「本当に隕石だったらニュースにでもなってる」
 クラスメイトは頷いて「確かにそうかもしれない。まあ、俺はどっちでもいいかな」と言い教室から出て行った。
 それから僕は再び奴の方向を見た。すると僕は偉人のように語っている奴と目があった。奴は僕を見るとニヤリと笑った。僕は何だかイライラして視線をそらした。その数秒後チャイムが鳴り先生が教室に入ってきた。算数の教科書とノートを持っていた。僕は算数が嫌いだから早く終わってほしいと思った。
 だが僕が想像していた算数の授業は始まる事なく、奴の周りに集まっている生徒たちを見て「何かあったの?」と先生は言った。
「隕石を拾ってきたらしいの」と或る1人の女の子は言った。
「隕石ですって?」
「そう隕石です」
 男の子も答えた。
「すごいじゃない。どこで拾ったの?」
 奴は先生に聞かれて自慢げな口調で「旅行に行ったんです。その時、海外で」と言った。
「海外? どこの国に行ったの?」
「砂漠の方です」
 そう奴が言うと先生は笑って「もしかしてどこの国に行ったのか分からないのかしら?」と言い、その隣にいた女の子が何故か反応して「遠い国でしょ? 名前とか覚えてないのね」と言う。
 奴はニンマリとして「そう。難しい名前の国だから忘れちゃった。でも砂漠で拾ったんだ。夜にさ。寒かったのと、星が綺麗だったのは覚えている」と話す。
「いいなあ。先生もそういう海外に行ってみないな。そうね。その隕石少しの間、教室の後ろに飾っとかない? 多分、他の先生たちも見に来ると思うわ」
 奴は少し考えるそぶりをしてから「いいよ」と答えた。
 彼らのやりとりを聞いていた僕は、まだ算数をしている方がましだと思った。それから後、算数の授業は始まって前回の続きの分数が行われた。
 次の休み時間はいろんなクラスから人が来ていた。先生も校長も来ていた。その所為でさらに教室の中はうるさかった。

 最後の授業を終えてチャイムが鳴る。それから先生は終礼を行った。それも終えてクラスメイトたちは立上りランドセルを背負って帰宅していく。僕も勿論、それに続いて帰ろうとした。すると僕の名前を先生が呼んだ。
「なんです?」
 僕は答えた。
「悪いんだけどね。職員室に来てくれるかな?」
「どうしてですか?」
 先生は僕の目をジッと見てから言った。
「キミさ、さっきの算数の小テスト、カンニングしたでしょ?」
 僕は黙った。それから答えた。
「それは誰からか申告があったんですか?」
 先生は僕の質問に対して何も言わずに「取りあえず職員室に来て」と言った。
 僕はその言葉の通り先生に付いて行き教室を出た。
 
 職員室から教室を戻る途中の廊下はオレンジ色だった。夕陽の光が窓から射し、普段では見る事ができない景色。だがそんな事はどうでもうよく僕はクタクタに疲れていたからランドセルを取ってすぐにでも帰りたかった。教室に入り中を見渡すと誰も居なかった。それから自分の机に向かうがその途中で教室の一番奥に置いてある隕石に目が留まった。西日によって注がれた隕石は意外にも静かに、そう、もの静かにあった。西日の光に反射もせず、輝きもせず、燃える炭のようにもでなく、ただ、沈黙を守っていた。その僕はその隕石を見たくなった。本当に隕石かは知らなかったが他の石と違っているのか確認をしたくなった。それで近づいて見る事にした。
 隕石は表面は滑らかで黒色だった。それに加えて白くて小さい粒子が所々に散っていた。これが隕石? グラウンドの隅っこに落ちていても誰も気にも止めないであろう。僕は再び思った。これは偽物だ。
「ふうん。興味あんの?」
 教室の入り口から声がした。僕は振り返った。奴だった。奴は腕を組んで戸口に寄りかかってニヤリと笑っていた。
 僕はそれに対して何も反応せず教室を出ようとした。
「お前カンニングしたって?」
 奴は意地悪そうに言った。
「どうしてお前が知っている」
 だが奴はその事に対してなにも言わず、ニヤリと笑い「本当は見たかったんだろう? 俺の隕石? でも大勢の生徒たちがいると見れなかった。そうだろ?」と言った。
 僕は奴の偉そうに言う顔を見た。それから自信満々に跳ねる口元を見て言った。
「もしかしてお前が先生に僕がカンニングしたと言ったのか?」
 奴は僕の顔を軽く見た。でも何も言わなかった。それから僕の方に近づいてきた。隕石は引力によって引き寄せられる。まるで引き寄せられているかのように奴は僕の前に立った。
「感想は?」
「蹴り飛ばす価値もないね」
「そりゃそうさ。こいつは誰かに蹴り飛ばされなくても自分から飛ぶんだから」
「違うね。自分の意思はない。ただ何も考えずに浮遊しているんだ。それで仮にこいつが本物の隕石だとすると、たまたま、地球の砂の上に落下したんだ。まあ、それはないだろ。だってこれは偽物なんだから」
「意思はないだって? 意思はあるさ。それと、もう一つ。お前が言っている偽物も或る意味では正解だ」
 僕は苦々しい口調で言った。
「偽物が正解だ?」
「ああそうさ。こいつは確かに地球のただの石だ」
「は? なら隕石じゃないだろ?」
 奴は得意げに微笑んだ。
「一度地球から逃げ出しんだ。何億年前に、ね。昔この石は回転する空を見てこう思ったんだ。『夜空を見て思う。ああ何てこれほどまでに美しく光る星が或るというのに私はこれほどまでに醜くいんだ。私も彼らと共に輝きたいものだ』って。それからこの石はずっとそう思っていた。何千もね。で、或る日の事、石はいつも通りに星を見て願っていると突然、石は持ち上がって浮いたんだ。ぐんぐんとさ。石は大気圏を超えて星の方に導かれた」
 僕はバカらしくなった。奴が真面目な表情を作って語るこの内容にだ。
「それでその石はまた地球に落ちて来たのか? まさか故郷が恋しくなったのか? 新生活を送る学生のホームシック的に?」
「さあね? 俺が知っているのはここまでさ。この隕石が教えてくれのはここまでだから」
「あっそ」
 僕はそう答えた後、奴から離れて教室を出ようとした。けど奴は話しを続けた。
「次は海底に行きたいんだって。深い、底に。それで類似している箇所を探したいらしい。銀河の底と海の底の、ね」
「隕石の癖に陰気臭い奴だ」
 僕はそう言葉を発して教室から出た。

 僕が次の日登校すると隕石は無くなっていた。クラスメイトは誰かに盗まれたんだろうと言った。それでクラスメイトの1人が「そういえばお前、最後まで学校に残っていただろ! オレ、部活の帰りに見たんだ。お前が夕方、校舎から出て行くのを! お前しかいない! お前が隕石を盗んだんだ」彼の一言にクラスメイト全員が僕の方を見た。その彼らの目は間違いなく疑いの目であった。僕は静かに奴の方向を見た。奴は相変わらずの表情で薄っすらと笑っていた。
 僕はため息を吐いた。それから「きっと今頃、マリアナ海溝にでもいるさ」と言った。
 すると奴落ち着いた口調で言った。
「盗るのはダメだよ」

君は知っている。隕石の故郷。

君は知っている。隕石の故郷。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-12-12

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