ヴィーナスと略奪者

これちかうじょう

  1. 保健室登校初日
  2. 交換日記
  3. 恋愛相談
  4. 天野先輩がやってきた
  5. ヴィーナスとディーヴァ

久々、袂(馬鹿)の登場です。
保健室登校をしているのですが、
そこで出逢った猪瀬大地は精神年齢が低いという現実。
1年生トリオ(袂、冬至、大地)のやり取りにも注目です。

保健室登校初日

「あ」
「ん?」
「お前!柳瀬橋だ!柳瀬橋袂!」
保健室登校、初日。
俺は校門のところまでじいちゃんに送ってもらって、
そこから保健室までは自力で松葉づえで歩いてきたんだけど、
保健室に入ってすぐに先客に名前を叫ばれたのでびっくりしてしまった。

「うわあ、きらきらしてるーいいなあ、いいなあ」
「あの、お前は誰」
「うん、俺は猪瀬大地っていうんだあ、おんなじ1年だよ、総合進学部の」
「ふうん」
見ない顔、と俺はやっとこさ靴を脱いだ。
「どしたの?何でここに来たの」
「あー、俺ね、うまく歩けないからしばらく此処に登校すんの」
「何で?」
「頭に腫瘍ができてたんだよ、脳腫瘍ってやつ。それを取ったんだけどさ、
 その後遺症みたいなもんで歩行訓練に病院通うの。それまで此処に来るの」
「ほえー、何だか大変だったんだなあ、何も知らなくてごめん」
「いや、知ってたら逆に怖いわ」
養護教諭の先生に、ここのベッドを使えと言われる。
猪瀬の隣だ。
「猪瀬はどしたん」
「俺は具合悪いの、だからここにいんの」
「ふうん」
それよりさあ、と猪瀬がにやにやしている。
「どしたの」
「ミスコンの時とあんま変わらないくらいきらきらしてんねえ」
「は?さっきからきらきらとか何だよ」
「俺ね、柳瀬橋のこと好きなの、きらきらしてっから」
「はあ?」
「でもね、好きっていうのは度合いが違うよ?恋愛の好きじゃないからね」
「はいはい」
意味不明。
友達になりたいのか?ああ、そうだよな、こいついなさそう。
そんな時だった。
「おはよーさん」
中村がやっとこ来てくれたので俺は笑顔になる。
「な、何だよにこにこしちゃってからに」
「嬉しいなあって思って!中村と久々なんだもん」
「お前、誤解される言い方やめろ、橘に俺が殺される」
「何で橘がお前殺すの」
「馬鹿、すんげえ馬鹿」
馬鹿って言ったなあ!と言ったところで、先生にごほんと咳ばらいをされる。
「すんません」
「でも柳瀬橋が元気そうで何よりだよ、早く教室復帰できるといいな」
「うん、俺も早く行きたい」
「待ってるからさ、そうだ、昼飯も食える時があったら一緒しよ」
「うん!」
じろーっと視線を感じる。

「中村、こいつ、猪瀬っていうんだ」
「ん?」
「猪瀬、こっちは中村。俺の親友」
「ども、藤原先輩の嫁」
「な!」
藤原先輩の嫁?中村が?何だそれ。

「何で結ちゃんの嫁なんだよ俺が!」
「ほほう、結ちゃん呼ばわりしてんだ?さすがだな嫁」
「おまえー!ぜってえ殴るかんな!」
「いいのかあ?応援団の人間が暴力沙汰起こしたら!それこそ夫に迷惑かけんぞ!」
「夫って言うな!俺は嫁じゃねえ!」
「…」
言葉がない、俺である。

交換日記

「猪瀬は何の勉強してんの」
ふと、俺は聞いてみた。
うつ伏せになって何やらノートに書きこんでいるから、
てっきり勉強しているんだと思っていた。

「交換日記だよ、これ」
「交換日記?誰としてんの」
「真咲」
「まさき?誰それ」
「知らない?天野真咲、2年生の先輩。生徒会の副会長してるでしょ」
「あーあー、天野先輩かあ、部長の友達の!」
確か、部長と同じ教室にいたっけか。
しかも生徒会の副会長ときたもんだ。
そんな偉い人と交換日記してるって、猪瀬って何者?

「どんなこと書いてあんの」
「俺のこと好きだって書いてある」
「え」
「ばーか、嘘だよ、冗談」
そうだよな、橘じゃあるまいし、そうは好き好き言う人間いないわ。
でも俺が入院中、橘来なかったんだよなあ。
てか、知らせてないから当然か。
1日1回って約束、また果たさないといけないのかなあ。

「猪瀬は何を書くの」
「好きだって書くの」
「え」
「ばーか、嘘だよ、冗談」
何かこう、掴めないやつだなあ、猪瀬って。
でも嬉しそうに読んだり書いたりしてるし、
きっと、天野先輩のこと好きだっていうのは本当なんだろうな。

恋愛相談

「柳瀬橋は橘と付き合ってんだろ」
「ほげ」
いきなりなんだよ、と俺ははぐらかした。
そもそも付き合おうとは言われてない。
好きだとかキスしようとか、そんだけだし。

「そういう猪瀬は天野先輩が好きなんだろ」
「うん」
「おう、素直だな」
「だってまじだもん」
ねえねえ、と猪瀬が足をバタバタさせる。
「乗ってよ、恋愛相談」
「俺が?」
「そうだよ、どうしたら真咲が俺のこと好きになるか、一緒に考えて」
「うーん」
生徒会の人って怖いんだよね。
何されるか分からないし、しかも副会長でしょ?
橘も今、副会長の仕事、見習いでやってるし。
つか、何だよ何だよ、橘の奴、すんげえ多忙じゃん。
俺に構ってる暇なんかないじゃん。
「ぶー」
「何さ」
「橘がさ、超多忙だなって思って。テストでも1番取っちゃうし、
 今じゃ放送部で吹奏楽部の天敵だし、生徒会の副会長見習いもやってるんだよ?
 俺、馬鹿じゃん、釣り合わないじゃん」
「…身分違いの恋ってやつで萌えるじゃん」
「萌えねえよ、全然」
「だったら俺もそうだろ、真咲は生徒会の人間で、俺は単なる書道部員。
 身分違いもいいとこだ」
「そりゃそうだ」
「納得すんな」
そこであはははと笑いあう。
何かこう、掴めねえ奴だけど、猪瀬って可愛いな。
「そのままでいいんじゃないのかな、猪瀬って。お前、俺からすれば可愛いよ」
「可愛い?俺が?」
「うん、一緒に居て面白いし。でも何で具合悪いの」
「俺、病気だから」
「病気?」
「簡単には治らないんだ。だから薬もいっぱい持ってる。注射もするんだ。肩に太いの打つんだよ。
 超いてえんだ」
「ふうん」
同じ、病気の身としては、親近感が湧いたりするな。

天野先輩がやってきた

「書道部に行ったらまだ保健室じゃないのかって言われて」
テスト前ということで、授業は短縮時間で行われている。
天野先輩が保健室に顔を出したのは、俺が帰った後である。
だからここからは猪瀬談。

「真咲、お前はデリカシーがないな」
「はい?」
「普通に入って来て普通にカーテン開けて、
 そんで今の台詞だろ?デリカシーがねえ、すんげえ俺恥ずかしいのに」
「あ、ごめん。じゃあカーテン閉めようか」
「閉めたらもっと恥ずかしいの!ったく、はい、交換日記」
「ああ、うん」
どうも、と真咲がノートを受け取る。
「いつ見ても大地の字は綺麗だね」
「そりゃ、書道部のエースですから」
「僕も見習わないと。生徒会の文字起こしもパソコンに任せきりだから、
 自分の字をたまに見るとげんなりする時があるよ」
それより、と俺は外を指さす。
「雨、降ってないじゃん」
「ああ、降ってないね」
「俺もう死にそうだから帰る。日記渡したし、いいよな」
「送っていこうか」
「馬鹿だな、下心丸見えなんだよ」
「いや、全然それはないんだけれど」
「…馬鹿!」
少しくらい、意識してくれたっていいじゃん。
少しくらい、好きだって言ってくれたっていいじゃん。
早く気づけよ、お前の業の深さに。
「じゃあ僕は生徒会に行かないと。大地、気を付けて帰って」
「うん、気を付けて帰る」

ヴィーナスとディーヴァ

「恋愛相談?お前が?」
「そうなんだい、俺が乗ってやってんだい」
「あははははあははははは!無理!つか絶望的に無理!」
「ひっでー」
中村はげらげらと笑っているんだけれど、
俺はちょっと気になっていることがある。
中村、首のとこにキスマークがあるんだけど…言ってもいいのかな?
「なあ中村」
「何だよ」
「藤原先輩とどこまで行った?」
「はあ!?俺が結ちゃんとどうこうなるって何で思うの!?馬鹿じゃねえの!」
「…」
これって、何だか、猪瀬と同じパターンだよ。
親友なんだけど、
友達以上なんだけど、
恋人未満だし、
いや、俺が中村といちゃいちゃとかありえないんだけどさ、
中村も中村でいろいろあるんだなあと、
俺はそう思うのでした。

「ついてんのかーい!」

ほら、気づいてなかったじゃんか。

ヴィーナスと略奪者

袂はいいなあ、馬鹿で面白くて。
同じく冬至も馬鹿で面白い。
大地は深いなあと思いました。
たまにちょこちょこ挟んでいきたいこの企画。
ブルーライトに殺されないうちは、
いろいろやってみたいんです。
すんまそん。

ヴィーナスと略奪者

久々、袂(馬鹿)の登場です。 保健室登校をしているのですが、 そこで出逢った猪瀬大地は精神年齢が低いという現実。 1年生トリオ(袂、冬至、大地)のやり取りにも注目です。

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