生理用品

月らくだ

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「ねえ、私の生理用品、どこ?」と洗面所からミサキの声がする。
「知らないよ。この家にそんなもの置いておくなよ」と僕は朝食のスクランブルエッグを作りながら答える。
「確か、ここに置いておいたのに」戸棚を開けたり閉めたりする音。「ない」
「僕は知らないよ」
「あなたの奥さんが使ったってことないよね?」
「恐いこと言わないでくれよ」とフライパンの卵をかきまぜながら言う。
「最後に奥さん、帰ってきたの、いつ?」
「先月の初めかな」
「私が買っておいたのは確か先月の中旬くらいだった」
「僕は浮気してる妻が戻ってくるのを辛抱強く待ってる夫なんだ。家に知らない生理用品があったら、おかしいだろ」
「どこいったんだろ」
「お願いだから、そんなもの置かないでくれ」
「そんなものってなによ。いざっていう時に生理用品がないとすごく困るの。あなたにはわからないと思うけど」
「持ち歩いてればいいだろ」
「いつも持ち歩いてるわけじゃないの。バッグに入れ忘れることだってあるし」
「生理の時はこの家に来なければいい」
「ひどい」と彼女は声を張り上げて言う。さも傷ついたというように。「それ、一番女性に言っちゃいけない言葉よ」
 僕はトースターからパンを出して、その上にフライパンで炒めたスクランブルエッグをのせる。彼女は叫ぶ。
「いつ生理になるかなんてわからないの。急にいつもより早くなることだってあるし。そんなこと言うんだったら、もう二度とこの家には来ない!」
 僕はテーブルに朝食をのせた皿を置いて、コーヒーをカップに注いだ。パンもコーヒーも美味しそうな湯気を立てている。腹が減っていた。朝から二回もセックスしたせいだ。僕らは朝六時に起きてセックスをして、そのまま怠惰な微睡みを甘受し、八時にもう一度セックスをした。欲望のままに。いつも僕は妻のベッドに寝て、彼女は僕のベッドに寝る。滅多に帰ってこないとは言え、妻のベッドに別の女性を寝かせる気にはならない。
「ごめん。謝るから、ご飯を食べよう」と僕は言った。
 ミサキは下着姿のまま洗面所から戻ってきて、ふくれ面のまま食卓についた。僕は彼女の髪の分け目にキスをして、もう一度、ごめんね、と言った。彼女は目を伏せたまま、「私はヨウちゃんの性欲処理係じゃないのよ」
 そんな風には思ってないよ、と僕は言った。むしろ僕が君の性欲処理係じゃないか、そう言おうか思ったが、もちろんそんなことは言わなかった。「さあ、食べよう」
 僕はあっと言う間に朝食を平らげた。少し足りなかったが、このくらいにしておこう。朝から満腹はよくない。コーヒーを飲みながら、窓の外を見た。いい天気だ。
「で、生理は大丈夫?」と僕は彼女に聞いた。
「うん。でも、そろそろなりそう。セックスするとそれきっかけでなることが多いし」
「じゃあ、後で生理用品を買いに行こう」
「うん」と彼女はトーストを持つ手を止めて言った。「もうこの家には置かない」
 朝食の後、僕らはもう一度セックスをした。下着姿でパンを齧っている彼女を見ていたら、欲情したのだ。テーブルに手をつかせて、立ったまま後ろから彼女を抱いた。生理前だから大丈夫だよ、と彼女が言うので、僕は心おきなく中に放出した。
 それから少しのんびりして、午前十時に僕らは車で買い物に出かけた。ドラッグストアで生理用品と目薬を買い、ショッピングモールで靴を物色した。僕の新しいスニーカーを探すのが目的だったが、彼女が気に入ったパンプスを見つけたので、それを買ってあげた。彼女はとても嬉しそうにしていた。僕らはぶらぶらとショッピングモールを回った。破けたジーンズの代わりを買おうかと思ったが、ちょうどいいサイズがなくて、やめた。本屋でしばらく時間を過ごし、昼食にパスタを食べ、夕食の食材を買って帰った。ビールのケースも買った。それからワインのボトルも。
 帰り道、「ねえ、次はいつ奥さん帰ってくるの?」と彼女が言った。
「わからない。今月はまだ連絡が来てない」
「どうして別れないの?」
「色んな事情があるんだよ」と僕はハンドルを握りながら言った。「大人の事情がさ」
 家に着いて、買ってきたものを袋から出し、食材を冷蔵庫に入れた。彼女が生理用品を洗面所の戸棚にしまおうとするので、「おいおい、生理用品はこの家には置かない約束だろ?」
「今度の生理が始まるまでの間よ」
「いつ始まるんだよ」
「さあ」と彼女は言った。それから心なしか嬉しそうに、「次、セックスしたら、なるんじゃない?」

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