アーユルヴェーダ*拾伍

これちかうじょう

  1. でこちゅう解禁パート2
  2. 忠則の訃報
  3. 7月の第1週、大イベント
  4. 7月1日はおじいちゃんの命日
  5. 忠則の手紙Ⅱ
  6. おじいちゃんとおばあちゃん、再会

7月になります。
その前に事件です、姉さん。

でこちゅう解禁パート2

「んー」
何か、こう、吸われてる気がする、魂が。
「んーんー」
俺ははっとなる。
目の前に、首!
ぎゃー!
「何してんだ馬鹿者!」
「…でこちゅう」
恥ずかしげもなく言いおってからに!
俺は思い切り結ちゃんの股間を蹴り飛ばした。
「…痛い」
「いてえわ!痛いよな!男だもんな!」
寝てる人に何してんだ、しかも自分ででこちゅうと言い放ったぞこいつ!
どこまで犯罪者なんだ!
「しばらく悶絶してろ!俺は起きるからな!ご飯作れ!」
と、どこまでも俺も馬鹿なのである。

忠則の訃報

「冬至君、今連絡があって、」
俺は顔を上げる。思わず味噌汁をこぼしてしまった。
「すぐに行けば間に合うかもしれない、早く準備して」
「は、はい、」
誰からの連絡なんだと言いたいけれど、その前に俺は、どうしても。



「…冬至か」
急な話でごめん、と父さんが謝る。
「ごめんな、もう、目が」
「父さん、俺、決めたから」
「うん?」
「だからもう安心して休んでくれよ、お母さんが待ってる」
「…うん」
例の小さな病院で、父さんは息を引き取った。
最後に元気な姿を見たのが、もうずいぶん前で、
その時からすると今はもう、すごくやつれているというか、
どうしてこうなるまで頑張ったんだと俺は言いたかった。
兄ちゃんたちにも知らせないとと思うけど、それよりも何よりも、
大好きな父さんが死んでしまったことは、
俺にとって大きな喪失であった。
聴覚だけは最期まで生きている、と前に結ちゃんのおばあちゃんがいた施設で聞いた。
だからその時まで、その瞬間まで俺は話しかけていた。
それは、後ろにいる結ちゃんにも聞こえるように、ちゃんと言っていた。

「今までありがとう、ずっと守ってくれてありがとう、父さん」
「…冬至」
「俺、もうちゃんと決めたから。だから安心してくれ、もういいんだ、ゆっくり休んでくれよな」
しにんとの最期って、こんなに悲惨なものなの?
俺は自分の中の力が、初めて恐ろしいものに思えた。
もし、俺がこのまま自分の夢を叶えて、そしてそれが父さんと同じ道だとして、
その先がこれだと思うと、
何だか、すごく、すごく怖くて、立っていられない。
それでも父さんは、ずっと今まで、人を助けようとして、頑張ってきた。
それだけは、俺が覚えている。

「なあ結ちゃん」
「?」
「俺の声、父さん、ちゃんと最期まで聞けたかな」
「うん」
「結ちゃんのおばあちゃんも、きっと最期まで結ちゃんの声、聞こえてたよ。
 だから最期、頭撫でてくれたんだもん」
「…うん」

父さんがいない世界で、俺が残された世界で、
これから俺は、父さんと同じ道を歩いて行くと、今は思う。
俺は、将来、父さんのような消防士になりたい。
そして、父さんができなくて悩んでたこと、全うしたい。
死んだ人を見れる力があるならば、その寸前の人だって分かるはずだ。
死んでしまう前に救える命があるのなら、
俺はそれに賭けたい。
それに報いたい。
父さんが、そうでありたかったと願ったように。

7月の第1週、大イベント

「冬至」
「何だ」
「明日から修学旅行だからいなくなる」
「…」
はい?と俺はご飯を食べる手を止めた。
「しゅーがくりょこう?」
「冬至君、お土産ねだっちゃいなよ!北海道だもんなー、いいなー、お父さんも行きたいなー」
「お父さんたら無理なこと言わなーい!」
ちょい待て!と俺は箸をばしっと置いた。
「何それ、今言うこと!?」
「うん」
「うんじゃねえよ、何だよ何だよ、もっと前に前もって言うべきことだろーが!」
普通に7月を迎えていた、そんな俺である。
副団長として?少しは部活にも精が出てきた、ところであった。
(ただ部誌を書いているだけなんだけど)
話によれば(結ちゃんは無口なので一ノ瀬先輩に電話して聞き出した)、
7月の第1週、つまり明日から5日間、高等部の2年生は全員修学旅行に行くらしい。
総合進学部は北海道、総合男子部はカナダ、総合女子部は中国、情報科学部は沖縄、と言った具合に。
それを知らなかった俺も俺だが、
言わない結ちゃんも結ちゃんである。
1年生と3年生には遠足があるけど、2年生にそれがなかった理由はこれだった。
(柳瀬橋の体のこともあって遠足に俺は行ってない)

「何でもっと前に言わないの?俺、普通に知らなかったよ」
「…ごめん」
「まあいいさ、結ちゃんがいなくても俺は俺で学校行くし」
「…」
「どこに行くにも結ちゃんがもれなくついてきてちょっと嫌な時もあったんだよ。
 でもそれも5日、解放されるなんて!うれしー」
「…」
ここは結ちゃんの部屋である。
結ちゃんは荷物をまとめていて、俺はそれをだらだらしながら眺めているという構図。
「お小遣いっていくらか決まってんの?」
「…7万が上限」
「普段が10万以上持ってる人にはお小遣いだね、あーやだやだ金持ちは!」
「…」
今度、と結ちゃんがぼそっと言う。
「今度、買い出しに一緒に行こう」
「買い出し?」
「食材」
「あー、そっか、そっか、そうだよな、俺食べてばっかだもん、調達する方を忘れてたよ」
「…だから」
「ん?」
ちゃんと家に帰ってきてくれ、と言われる。
言われなくても、此処には帰ってくるさ。
「明日は何時に家出るの」
「4時半」
「駅には5時半集合って感じか。始発で行っちゃうんだ」
「…うん」
「俺、見送りに駅までは行けないよ。ここでサヨナラだな」
「…」
だったら、と俺は思う。
明日くらいは、いいか。

4時半、というのは結ちゃんがいつもは起きだしてすごい寝ぐせと戦っている時間だ。
そんな時間に家を出るのだから、逆算して3時には結ちゃんは起きていた。
俺は寝ぼけ眼でそれを見送る。
ただ、何でだろうか、5日離れるだけなのに、
すごく、すごく心が痛いような気がする。
もう、二度と逢えないんじゃないかって思うくらい、
心が痛い。

「結ちゃん、お土産は要らないからな」
「うん」
「俺に金使うくらいなら、友達と酒でも飲んできな」
「うん」
2年生だけど、16歳とか17歳だけど。
「5日間、俺のこと忘れて楽しんできて」
「…うん」
それは、願いでもあった。
5日とは言わず、
これから先も、ずっと先も、
俺のことを忘れて楽しんでいってくれればいいと。
もし、俺が居なくなっても。
「冬至」
ばれた。
前を歩いていた結ちゃんが美しく振り返る。
「何で泣いて」
「目にゴミが入ったの!いーから早く行け!」
「冬至」
泣いている俺の目を結ちゃんが舐める。
そういうこと、しなくていいのに。
最後にでこちゅうまでかまして、結ちゃんは門の外へ出た。
俺は門の中だ。
「じゃーな、元気でやれよ」
「…行ってきます」
「行ってらっしゃい」

7月1日はおじいちゃんの命日

「おじいちゃん、おじいちゃん」
仏壇の前で、俺は手を合わせてそう呼びかけている。
結ちゃんが行ってしまってから、もう2時間は経った。
「なんじゃ冬至君」
「あーやっぱりできた…」
振り返る。
縁側に、おじいちゃんがどかっと座っていた。
「折り入って相談があるんですが」
「なんじゃ」
「俺を此処の家の子にしてくれませんか」
「ははは、なんじゃそんなこと」
「そんなこととは!」
「すまんすまん、でもな、何を今さらって感じじゃよ」
おじいちゃんはすっと立ち上がって俺の真横まで来る。
「今日はの、わしの命日なんじゃよ」
「知ってます」
「ほほう、そうかそうか、嬉しいの」
「将棋盤を探しておばあちゃんとはぐれたんですか」
「まあそんなとこじゃ。でも検討はついておるでな」
「どこにあるんですか将棋盤」
「結の部屋じゃ。わしもな、結が3歳の時に死んでしまっておるからの、その時に処分されたとばかり、
 思っておったんじゃ。でも離れに住んでいたのはわしとばあさんと結だけじゃしの、
 ばあさんが結に形見だとか言って持たせてるんだとは検討してみたんじゃが」
じゃあ一緒に、ということでおじいちゃんと離れへ行く俺である。
その途中でいろんな話を聞かせてもらった。
俺が飲まされた甘酒のこととか、買い出しのこととか。
「甘酒はの、ばあさんが好きでなあ。買い出しに行くたんびに買いおって、
 子供は虫歯ができやすいからと言って砂糖なしの甘酒を結に飲ませてたんじゃ」
「虫歯できなかったんですか?あれ結構甘かったですよ」
「虫歯は無縁じゃの、結は。料理や裁縫はばあさんが教えたんじゃが、歯磨きとか風呂なんぞは、
 このわしが教えたんじゃ」
「ほえー」
「ただ保育園にも幼稚園にも通えなかったことが結には可哀想でな。一ノ瀬さんとこの十和子ちゃんは、
 英才教育とか言って有名な幼稚園に通っていたんじゃよ」
「分かる気がします」
「さあて、久々の離れじゃのー」
ちょっと待て、と俺は階段を上がりながら思う。
結ちゃんの部屋ともなれば、ついさっきまで俺が寝てた場所だ。
何か痕跡なんぞあれば、何してんじゃーと怒られてしまうんでは?
「お、おじいちゃん!」
「なんじゃ」
「ちょっと待ってくれます!?俺が先に行って見てみます!」
「一緒に探そうぞい」
「いやその!」
「べーつに、結と冬至君が何してようがわしはどうこう言わんぞ」
く、くそ恥ずかしい…。

「手紙、じゃの」
「あ」
枕の下から父さんの書いた手紙が出てきた。
俺も読んでいいって言われてたよな。
「おおー、将棋盤じゃ!結ったら綺麗に保存しておいたのう!」
「じゃあ運びますか!」
「縁側へ運んでくれ冬至君」

忠則の手紙Ⅱ

冬至を大切にしてくれるあなたへ

もしくは、冬至を凪と呼んでくれるあなたへ

風は別名、凪と呼ばれます。
夕、初、たくさん種類があります。

その中で、あなたに出逢った冬至は、
恐らく、あなたにとっての風になるでしょう。

無風状態から人は始まります。
そして、同じく無風状態にて、人は終わります。
最期に何ができるか、
何を残せるか。

残された世界で、あなたがたは、
きっとわたしの夢を見るでしょう。

わたしは生きました。
あなたがたも生きています。

どうか、願わくば、
あなたと冬至に、倖せが降り注ぎますよう。

全ての愛が、あなたがたに降り積もりますよう。

冬至をお願いします。
あなたにしか、できないことを。

中村忠則

おじいちゃんとおばあちゃん、再会

「見つけましたよおじいさん」
「わわ!ばあさん!」
「それと、冬至君と言いましたか、しにんとさん」
俺は普通の人間です、と咳払いする。

「おばあちゃん」
「何ですか」
「俺を此処の家の子にしてください」
「ほほ、そんなこと」
またそんなこと呼ばわりされちゃったよ…。

「この家に来た日から、もうあなたはとっくに藤原家の人間ですよ」
「え」
「結が見つけた人生最高の宝です、認めない理由がありますか?」
「…なんつーか、恥ずかしー」
「あんなに不器用な子が、こんなに器用な子に惹かれるとはびっくりですよ。
 そう言えば結が見当たりませんね」
「修学旅行に行っちゃいました」
やべえ、ちょっとうるっとしちゃう。
「このことは柊さんと祥には?」
「まだ言ってないです、先におじいちゃんとおばあちゃんにと思って」
「順番を踏んでるってことですね、すごく器用なことを」
「ばあさんばあさん」
「何ですおじいさん」
「さっき結の部屋に入ったんじゃがの、冬至君と随分いちゃいちゃしておるようじゃぞ。
 ちょっと覗いてみたくなったぞ」
ちょいまち!と俺はふたりの間に割って入る。
「何言ってんすか!」
「だって冬至君の写真があったしのう、あれを使ってきっと、」
「馬鹿なこと言うな!」
やべえ、おじいちゃんに暴言を!

「結も男の子ですからね、好きな子相手にいろいろしたいのはわたしにも分かりますよ。
 でもそれを本人に悟られてはいけないでしょうおじいさん」
「そうじゃの、冬至君も恥ずかしいわの」
「…」
駄目、俺、死にそう。
結ちゃんに再会することなく、
死にそう。

アーユルヴェーダ*拾伍

修学旅行に行っちゃった結ちゃんです。
そして、冬至は何故か再会できないようなことを考えています。
それはまた、次の機会に。
でも、冬至の写真なんてどうやって手に入れたんだろ?
ああ、長谷川君たちにもらったのかなあ?
冬至をおかずに…
なんてこと、作者は恥ずかしくて言えません!
(言ってるよ)

アーユルヴェーダ*拾伍

7月になります。 その前に事件です、姉さん。

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