第8話-31
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ターミナズから海水の中へ吐き出されたビザンとミザンは、ターミナズが発する七色の輝きがなければ視界が効かない遺跡の入り口に立ち、父の記録通りに両側に立つ銀色の柱にびっしりと彫り込まれた言葉を見つけた。
ビザンは両手に銀色のキューブを抱えているので圧倒されるこの細工を眺めることしかできない。
妹のミザンは手のひらで柱を撫で、その言葉がどの種族の言葉であるのかを考えた。
だが考えるほどのこともなかった。ティーフェ族の言語学で最初に覚える基本の言語。『源の民』の言葉である。
「まさかこんなところに『源の民』が掘った言語があるなんて」
驚く妹に、兄は曇った顔を向けた。
「『源の民』ってのはあの子供の歴史でならうあれか」
ビザンは子供の頃、勉強した歴史の中に登場する、ティーフェ族の最初、始まりの文明を築いた人々のことを思い出した。
また父さんの記録にはない真実が出てきた。
そもそも海洋学者一辺倒の父だったから、言語学に疎いのも不思議ではないな、とビザンは納得しつつ妹の顔を一瞥した。
「読めるか?」
ミザンは銀色の柱を撫で、静かに視線を上下させた。ターミナズの七色の光で、文字がいくてもの色に輝きているように見えた。
「進む者、なんじが、行く道、光か闇か」
柱の影まで回り込み文字を見た彼女は、
「これが繰り返し書かれてるみたい」
光か闇か。
心中で囁き、そこから地下へ続く階段を、ビザンは降りていくのだでた。
第8話ー32へ続く
『用語』
《源の民》
ティーフェ族が120以上の部族に遥か昔、地球標準時間で約90億年前に存在したとされる、水の中で生活することを主とした最初の種族。120以上の部族の言葉、文化、文明の源になる言葉、文化を形成したとされる。宇宙考古学者の中では、1つの種族から120以上の部族に分散することはない、という見解もあるが、ティーフェ族の部族たちの歴史では、基礎とされている歴史学上、最重要な種族とされている。
第8話-31