雑歌

昼をやや過ぎてやうやく目を覚まし
君の尋ぬる今日の空色

青空に伸ばせる葉なほ繁げるらむ
あきは来るまじあいに染まれば

(横田基地)
よこたはる雲におされし日の沈む
返すあかねを跡に残して

白樺や知るや知らずや聞こえずや
羽根打つときの子らの笑ふを

夢ならで君に逢ひたし夕暮に
何をか言はむ何かは言はるる

極楽に往きても人を探せしか
憂きことのなき世にぞありしを

琵琶の滝なるなり影はなけれども
遠きにありてもの思はしむ

一息に半歩短き老僧の
呼吸は深き龍の山城

過ぎし日を思へば胸は血を吐きぬ
失せしもののみいとしと思へば

障子溶く赤き朝日の部屋に満つ
誰か死にたるやうにぞ思ふ

天つ風雲なき空に狂へるを
人は知るまじ目には見えねば

ぬばたまの夢を見るのもたまのをの
命の絶えぬうちとこそ思へ

みどり児の寝顔は似たり観世音
仏にありしを思ひ出せしか

お祭りでわれのもとめしねずみもち
水をあげしは君ばかりなり

ねずみもちかの日植ゑにしいまにづこ
ベランダいっぱい大きくなりしを

ちよろづの崇めて集ふ民がため
いま九重にみかどいませり

たまほこの道に転がる石にさへ
君と歩きし思ひ出しつつ

カフェーから眺むる雨の往来の
傘に隠れし顔にジャズ鳴る

日は沈み街は灯りをつけそめり
夜に夜を継ぎ君を思ひつつ

月はなし花とて去年の花はなし
君と見し日ぞ遠くなりぬる

古本を漁れる人の脳味噌は
世から分かるる孫宇宙かな

たらちねの祖母亡くなりて教会で
出会ふ言葉と人ぞうれしき

アナスィージィア麻酔の夢のごとく醒む
君と語りしバッドレリジョン

紫に沈む夕日と空の際
飛行機雲は流れ行きけり

墓石は自然に開くそれまでは
待ってみようか南無阿弥陀

金色の仏の心覗けれど
慣れたる餓鬼に成るぞあさまし

童らの手を伸ばしたるさくらんぼ
逃れよ木の実伸びよ童ら

校庭の隅の鉄棒こままわり
好きだと言えぬ気持ちぐるぐる

今朝もまた夕べを思ひ出すほどに
分かりきりたる今日ぞ嬉しき

きよ水もどぶも小川も大川も
同じ一つの海に流るる

人を得て人を失ふわが宿は
人を求むる人の悲しさ

われ一人にても扶けむビール市場
国の全てのビール飲み干し

うつせみのこの身だにさはあらなくに
何をかわれの意のままにせん

雑歌

何年分にもなる季節に属さない短歌たちです。

雑歌

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-12-07

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