ぶどう農家民話・カラスと猟師

じゅんじゅん

そこに、カラスが居ました。
むかしむかし、ではなく、ただそこに、カラスが居りました。
猟師はカラスを、ファインダー越しにずっと見つめていました。

カラスは残虐な行為を繰り返しました。
生まれたばかりの子猫を弄んだり、牛舎の牛の尻を突いたり。
悪意を表さぬほどに純粋に蛮行を、高らかに笑いながら行うカラスを、恐怖を持って見つめていました。
村人はそんなカラスを始末してくれと、猟師に依頼していました。

しかし一方、別の一面も見つめていました。
雛をしきりにあやす笑顔、番(つがい)の体調を気に病む表情、カラスの誓盟発表会で緊張して声を上ずらせた姿。
愛しむべきカラスも知ってしまったのです。

何故このカラスを殺さねばならないのか。
カラスはただ生きているだけ。生きることとは、愛し愛される反面、憎み憎まれること。
カラスを憎む村人は誰からも憎まれていないのか。誰をも傷付けていないのか。

猟師はカラスを殺すことができなくなりました。しかし、村人は猟師を責め立てます。
カラスは猟師の存在を察知し、猟師を憎み始めました。しかし、猟師はカラスを愛していたのです。
村人の責め苦に耐えかねた猟師は、銃を渡して告げました。
カラスへの憎しみを、私に向けて晴らしておくれ。

だから、しばし人はカラスを憎むことを忘れています。
カラスも猟師のことを忘れ始めています。
だけれど時折、数匹のカラスは遥か遠くから向けられた愛おし気な視線を思い出すかもしれません。
思い出し、ファインダー越しに向き直るのかもしれません。
その瞳は、罪に侵されながらも、愛に満ち溢れているのかもしれません。
少なくとも、私はそう願っています。

ぶどう農家民話・カラスと猟師

ぶどう農家民話・カラスと猟師

悪いカラスとそれを狙う猟師の話です

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-12-06

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