648番目の静かな海

顔のない猫が波打ちぎわを歩いている
輪郭は歪んでいて
アスファルトに散る見知らぬ風景は
ぼくを溶かす酸性雨となる

もう手遅れなのよ、と君は言うけれど
雲の欠片を掴もうとして
頭からコンクリートに飛び込んだ
揺れるカーテンを背に

汗ばんだTシャツに包まれながら
途方に暮れる午後
最後の夏を迎えるのだと知った
いつも通りの日々

ぼくには名前も脈拍もありません
痛みだけが残っている
免罪のための言葉たちが羊水を揺蕩う
丁寧に丁寧に

648番目の静かな海

648番目の静かな海

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-12-06

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