三題噺「空」「海」「交わるところ」
俺は病院にいた。
女の人が泣き叫ぶ声が聞こえる。
そうか、死んだんだ。と俺は思った。
女の人の声が、俺の耳からいつまでも消えなかった。
俺は人を撥ねた。
飛び出してきた人影をバイクで撥ねたのだ。
相手は高校生だった。
血の海に横たわった体は動かなかった。
まるで壊れた人形のようだった。
夜の交差点。
甲高いブレーキの音。
空高く舞い上がる体。
相手と視線があった。
相手は驚いたような目をしていた。
俺もそのような目をしていたのだろうか。
体が地面に着いた時、嫌な響きと共に俺の意識は途切れた。
泣き叫んでいた女の人が看護婦に連れられていく。
俺はベッドに横たわりながらそれを見送った。
俺が撥ねた高校生は隣のベッドに寝ている。
ただ、俺を撥ねて電柱に車ごと衝突した運転手だけが助からなかったようだ。
三題噺「空」「海」「交わるところ」