流行遅れ

MK3

流行遅れ

「えっ、BOOWY知らないの?」
 中1の時、好きな子にそう言われた。
カッコつけたかったが、ウソはつけない。
「うん、知らない」
 帰り道、踏切前での出来事。
 思春期真っ只中、多感な僕は恥ずかしくなった。
 流行に乗り遅れている自分に気づき、
片思いしている女子の前で惨めな思いをした。

 僕が知っていたバンドといえば、
アルフィーやハウンド・ドッグ、爆風スランプくらい。
 ゴールデンタイムが唯一の情報源。
 10代に人気のイカしたバンドとは縁がなかった。

 小学生時代、就寝時間は午後9時と決められていた。
 母はしつけに厳しく、
『よそはよそ、うちはうち』を地でいく人だった。
 唯一木曜日だけは1時間延長が許され、午後10時まで起きていた。
 理由はテレビ番組。
 
 あれは小5の頃だったはず。
 当時は『とんねるずのみなさんのおかげです』が流行っており、
放送翌日金曜の朝、男子たちは昨晩の話題で持ちきりだった。
 就寝ルール適用中の身にリアルタイム視聴は不可能。
 友達の輪に入りたくとも叶わぬ願い。
 何せ番組内容を知らないのだから。

 母に切々と事情を語り、
木曜だけは番組を観てから眠らせてほしいと頼んだ。
 息子が孤立している現状を不憫に思ったのだろう。
 陳情が通り、おかげで朝礼まで寂しい思いはしなくなった。

 ファミコンを手に入れたのも同級生では遅い方だった。
 これも小5の時のこと。

 放課後、友達の家へ行くと部屋にこもり、
夕暮れまでゲームをして過ごしていた。
 門限ギリギリまで居座り、ピコピコサウンドが流れる中、
ドット絵をかじりつくように眺めた。
 眺めたと表現したのは操作が不得手なため、
慣れた友達の軽やかなプレイを傍らで見るのが定番だったから。
モニターの向こう側はいつもまばゆかった。

「もうみんな持ってる、お願いだよ」
 粘り強く交渉を重ね、ゲームは一日1時間との約束で、
ようやく僕もファミコンを買ってもらうことができた。
「この金は私のへそくりから出したんだからな」
 レジに向かう前も、店を出て家に帰った後も、
その日何度もこの言葉が母の口からついて出た。
 
 ソフトを買ってもらえるのはクリスマスのときだけ。
 この習慣は中学に上がって、
スーパーファミコンに変わっても変わらなかった。
 プレイ時間もきっかり1時間。
 登校時、同じソフトを持つ同級生と会話していると、
だいぶ先まで物語が進んでいることに気がついた。
 聞けば、夜遅くまでゲームしているとのこと。
 彼の置かれた環境が羨ましくて仕方なかった。

 中学時代といえばひとつ、忘れられない思い出がある。
 あの頃はゲームボーイが大ヒットしてした。
 これも多くの同級生が所持しており、
ファミコン同様、友達の家へ遊びに行き触らせてもらっていた。

 そんな中、友人がソフト付きで本体を貸してくれるという。
 ありがたい申し出、嬉しかった。夢中になって遊んだ。
 だがある日、母がその存在に気づいた。

「すぐに返してこい!」
 母にとって携帯型でもゲーム機はゲーム機、変わりはない。
 ソフトの貸し借りとはまた別、という認識だった。
 泣く泣く返却しにいったこと、今でも覚えている。

流行遅れ

流行遅れ

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-12-04

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