11月の話

北上八三

寝てたら思いついた

寝ていたら突然上から何かが覆いかぶさってきた。完全に寝ていたから当然驚いた。体に何かがのしかかり、顔には柔らかいものが押し付けらていた。何が起こったのかわからなかった。そこがどこなのかもわからなかった。自分の家だと気が付いたのは随分後になってからだ。顔に押し付けられているのが枕だとわかったのと当時にそこが家だともわかった。
自分の家でどうやらその時私は殺されている最中らしかった。枕を押し付けて窒息死させるドラマとかであるやつを実行されているらしかった。まあ、昨今はあまり見ないような気がする。その殺し方は一昔前のブームというか。

ただとにかく一人暮らししている我が家に誰かが忍び込んで私を殺している最中というのは、察した。抵抗しようにも枕を押し付けられて何も見えなかった。手足はバタバタしてみた。H×Hで首をもがれてるか頭部をつぶされて死ぬ人みたいにここぞとばかりにバタバタはした。しかしどうにも。マウント取られてるしなあ。首抑えられているしなあ。それに相手だってわかってるはずだ。ここで失敗したら後が大変だろう。こっちは殺され未遂だ。どう考えてもお金とか請求するし、相手の家がどうなろうともお金とか請求する。私がそういう立場だったら嫌だなあ。そういう立場になりたくないなあ。

だから死ぬのかなあ。そう思ったが、特に何も思い出せない。走馬灯らしきものは一向に訪れない。意外と死ぬときっていうのはそういうモノなのかあ。しかしそうじゃないんだとすぐに分かった。苦しくないのだ。枕で顔を抑えられているけども、口と鼻全部ふさがってはいるんだけども、苦しくない。枕のちょっとした空間がそうさせるのかあるいは、私がもともとそういう体質なのかは定かじゃないけども、とにかく苦しくない。呼吸できる。だから上から抑えられているだけで、それが辛い。重い。辛い。

どうしようかと思って、とりあえず黙ってみることにした。手足のバタバタをやめてみた。すると少しして上から抑える力も弱まりその人の、
「はあはあ」
という荒い息遣いだけが室内で聞こえる状態になった。

「はあ、はあ」
よほど疲れたらしい。人を殺すのも大変なんだなあ。そら包丁とか刺した方が楽だよなあ。まあ私だって心臓の音がどくどく言っているだろう。学校の怪談3巻のお前だあ!の話みたいに調べられたらすぐにばれる。

しかししばらくすると私にのしかかっていた重みがなくなり軽くなった。それに加えて足音がして、それが私から離れていった。

ただ、私はこれからどうしたものかと、なおも黙っていた。もしかしたらフェイクで様子を見ているかもしれない。ドアから出ていったような音もしないし。

「・・・」
どれくらいの時間がたったのか、それは定かではない。ただとにかくこのままの状態でいるのももう無理だと、もう仕方ねえ。と、最悪死んでも仕方ないか。と捨て鉢な気持ちになって顔にかぶさっている枕をどかして起き上がってみると、室内は真っ暗なままだったが、廊下の先の玄関の脇の風呂場に明かりがついているのが見えた。

枕元にあった携帯を手に取って音をさせないように玄関に向かった。その最中今にも風呂場から誰か知らない奴が急にがばあっと飛び出してくるのではないかという妄想が湧いた。そして玄関まであと五歩というところで、もう耐えきれなくなって玄関に飛びかかり乱暴にドアを開け外に飛び出して、その時ちょっとだけ室内、風呂場の所を振り返った。
「え?」
声が出た。外は暗かった。携帯を確認すると深夜だった。

少し悩んでから結局再度家のドアを開けた。開けると風呂場が見えた。誰かも知らない奴がそこで首を吊っていた。

「一人だと寂しい」
風呂場の壁にそう書かれていた。

110に連絡して警察が来ると大変な騒ぎになった。最初警察は私が殺したんではないかと疑っていた。私だって殺されかけたし、そもそも知らない奴なのに。ただでも結局最後には自殺と判断された。調べると十年前私と一緒の職場で三か月働いていて辞めた人らしい。私は顔も名前も覚えていない。全然思い出せない。そんな人がいたことすら覚えてない。だから当然付き合いもない。警察もその辺随分と調べたらしいが、何も出てこなかった。当然だ。知らねえんだ。何も知らねえんだから。

集合住宅の管理人からは随分といろいろと言われた。私の事を慰めているようにも聞こえたが、なんとなく私のせいで他の部屋の住人が引っ越したり、家賃を値下げしなくてはいけないという苦情めいたニュアンスが含まれていた気がする。

自殺してた知らねえ奴の母親からも手紙が来て、私が職場でカッターを貸してくれたことがうれしかったというようなことが書いてあった。そして、どうして一緒に死んでくれなかったんですか?というようなことも書いてあった。手紙は破って燃やしたかったが、何かの裁判のためにとっておいた方がいいかもと思ったので、郵便局の私書箱を借りてそこに保管した。家には置いておきたくなかった。殺意が生まれるだけの手紙だった。

あと、引っ越しはしてない。今も同じ集合住宅の同じ部屋に住んでいる。

何で?

部屋にそいつのお化けが出るのを待ってる。

そいつのお化けが出たら、ぶっ殺してやりたい。二回でも三回でもぶっ殺してやりたい。何度だってぶっ殺してやりたい。私は、私だけはそいつをぶっ殺してもいいと思うんだ。だって殺されかけたし、相手はもう死んでるんだし。だからそいつがお化けになったら、私だけはそいつをぶっ殺してもいいと思うんだ。何度だって殺してやりたい。たくさん殺せたらいい。とにかく毎日のように殺せたらいい。

だから今は毎日バットで素振りをしてる。

毎日毎日頑張ってる。

11月の話

11月の話

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-12-02

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