シヴァとディーヴァⅥ

これちかうじょう

  1. 家族になろうよ
  2. 忠則の手紙
  3. せっかくだから2回目のデートを
  4. 家族になるということ
  5. あなたには読めるでしょうか
  6. でこちゅう解禁

いちゃいちゃ第六弾。
もはや恒例中の恒例。
でもちょこっと前に進む。

家族になろうよ

「で、考えてくれたかなあ?そろそろ答えもらってもいいかなって思っちゃって」
お父さんにそう言われて、俺は結構何も考えてなかったことに気が付いた。
「うちに来てくれるかな、そんでもって家族になろうよ」
「…いや、でも」
事実、中村家は破綻した。
父さんも命が危ないとお母さんに言われた。
だから逢いに行こうとは思っているけれど、その前にこれだ。
「あの、ちょっと待ってもらえますか」
「うん?」
「その、今度の日曜日に父さんに逢ってきていいですか」
「日曜?」
「はい」
間に合うかなあとお父さんは言った。
何が、間に合うかなあ、なんだろうか?
「仁道君がね、報告してきたんだよ。彼も彼なりに急いだんだろうけど、忠則さん、ちょっと休職中なんだ」
「休職中?」
「うん、入院するまでには至ってないけど、過労でね、倒れたらしいよ」
早くそれを言ってくれ!と俺はテーブルを叩いた。
「心配するだろうなと思って言わなかったんだ、ごめんね冬至君」
「今すぐ、逢ってきます!」
「じゃあ結も連れてって。帰って来れないなんてことないように」
「別に俺ひとりでも大丈夫ですって」
「ううん、こればっかりは駄目だよ。今までは大丈夫だとしても、これからはどうかは分からない」
「…はい」

そういうわけで、家族になろうよという議題は、少し持ち越しである。

忠則の手紙

父さんは職場の真横の小さな病院にいた。
第一病院じゃなく、そこにしたのは俺に悟られないようにと思ったからだそうだ。
でも、家族なんだから、そういうことはしないでほしい。

「父さん、具合悪いの?」
死んじゃうって分かってて、俺はそんなことを悠長に言っている。
「そんなに悪いわけじゃない、ただ少し疲れすぎたっていうかな」
「でもこの前より顔色悪いよ」
「冬至もな、悪いぞ」
「俺は大丈夫、ちょっと寒いだけだから」
「…寒い?」

時は6月の10日。
もう初夏と言ってもいい季節なんだけど、俺はブルブルしてしまう。
それは結ちゃんだけが知る、俺の体温というものに由来している。
見せてくれないんだよな、絶対に。

「体温、測ったのか」
「測られてるんだけど教えてもらえないんだ」
「どれどれ」
父さんの手が俺の額に当てられる。
「うん、少し冷たいな。頬も」
「だから寒いんだって」
「浪さんもな、冬至を産んですぐに亡くなったんだけど」
「…」
父さんが、火をつけたって言ったのは嘘か?
「彼女も低体温症で亡くなったんだ。きっとそれと同じ道をたどっているのかもしれない、冬至は」
「低体温症?何度だったの」
「0度を切ってたとしか言えない」
「それ、って、死体と一緒じゃん」
「死体よりひどい状態でお前を産んだんだ」
俺もそこまで下がるって言うのか?
父さんはベッドに横になっているけれど、よいせと上半身だけ起こした。
「その、結城さんの息子さん」
「結ちゃんていうんだよ父さん」
「結さん、そこの鞄の中に入ってる手紙を取ってくれますか」
頷いてから結ちゃんが父さんの鞄を開ける。
普通の白い封筒がその手に握られた。
「それを帰ったら読んでくれますか?徹夜して書きました」
「…」
「冬至も別に読んでもいいけど、さあて、お前に読めるかな」
「何だよそれ」
「とりあえずもうちょっとだけ父さんは大丈夫だから、今日は帰りなさい。
 明日も学校だろう」
「そうだけど、でも父さんが心配なんだ」
「はは、大丈夫だって。そうは死んだりしないさ。それより冬至、もう決めたのか」
何を、と俺は言う。
「藤原家に入るかどうかだ」
「はあ!?何でそうなんの、俺は父さんと母さんの子供なんだから」
「今すぐじゃないけどな、俺は多分長くない。母さんも捕まったままだ。正義や勝利たちにも苦労はかけたくない。
 そうすると気がかりなのがお前なんだ。せっかく結城さんが、…柊さんが申し出てくれたんだから、
 このままお世話になってもいいんだぞ」
「…そんなの、選べないよ」
「父さんがいなくなったらどうするんだ、母さんももう家にいない。あの家は売りに出すつもりだし、
 お前にはもう帰るところはないんだぞ」
「…」
「正義たちの世話にもなりたくないだろう?それぞれに家庭を持ってるんだ、邪魔になることは間違いない」
「そりゃあ、それはやだって思うけど」
「じゃあこのままお世話になった方がいい。…そうしてくれますか、結さん」
「はい」
何でだろう、俺は、俺のことなのに、何も自分で決められない。
ただ、母さんのいた家から逃げたのは、家出したのは俺の意思でもあった。
此処に居てもいい、と言われて、中村家から逃げた。
それは、俺の、俺なりの選択だった。

「結ちゃんの弟になっちゃうの、俺…」
「まあ、戸籍上ではそうなるだろうな。…嫌なのか?」
「やだよ、だって」
「だって?」
何が、だってだ。
どうして結ちゃんがお兄ちゃんになるのが嫌なのか、それは俺はもう理由を知っている。
それより何より気恥ずかしいというのが1番の理由だけど。

「お父さん」
結ちゃんが頭を下げる。いきなりなんだ。
「冬至君を俺にください」
「おい、台詞が時と場合によっては場違いだぞお前」
「ください」
「俺は嫁じゃねえっての」
はは、と父さんが笑った。
「冬至は果報者だなあ、こんなに想われてるのにつゆ知らずとは」
「果報者じゃなくて馬鹿者って言いたいんじゃないの父さん」
「そうだそうだ、馬鹿者だな、ははは」
「笑いごとじゃねえって」
父さんは結ちゃんに笑いかける。
「本当に柊さんにそっくりだなあ、若い頃の。無口で、不器用で、無表情で。
 でもそんなあなただからこそ、冬至を任せられると思います。
 冬至をお願いします」
「はい」
そこに点滴を替える看護師さんが来て、俺たちは帰ることになった。
「冬至」
「何?」
「大丈夫、大丈夫だ。お前は父さんの子でもあるんだから、そうは簡単に倒れないさ」
「うん」
どんなに疲れていても、どんなに苦しくても、仕事にいつも前向きで。
そういう芯の強さは、父さん譲りだと分かっている。
だから応援団の苦しい鍛錬にも耐えられるってもんだ。

「ありがとう父さん、俺、頑張る。そんで、選ぶよ」
「じゃあな、しっかりやれ」

せっかくだから2回目のデートを

「すっかり夕方だなあ」
夏が近いので、そうは暗くはないのだけれど。
「結ちゃんのおごりで何か食べて行こう」
「うん」
駅の中の商業施設に入る。
前に弁当箱を、お重だけどさ、買ってもらった店も入っているところだ。
「うわあ、パフェだよー」
「…」
甘いものにも目がない俺である。
「なあ、結ちゃんは何が好きなんだ?」
「冬至」
「ちげえよ、食べ物の話だっつーの」
「…プロテイン」
「ちげえよ、それもちげえわ」
とにかくここでいい、と俺は結ちゃんを伴ってカフェに入った。
「おふたりさまですかー?」
「はい、あの、席はあっちがいいです」
「どうぞお好きな席へー」
夕飯前ということで人の数は少ない。
多分、夕飯の買い出しで地下の食料品売り場はいっぱいだろうけど。
窓際の席に座って、俺はメニューを広げる。
「うへへ、パフェだパフェ」
「好きなのか」
「だって言ったら」
「俺が作る」
「それはまた今度なー」
おきまりですかー?とウェイトレスさんが来る。
「ホットケーキとチョコパフェを1個ずつ、それから」
「…」
「結ちゃんにはこれかな、コーヒーをブラックで」
「かしこまりましたー」
こんなにでかい図体してて、少食ときたもんだ。
まあ、俺が食べ終わるまでコーヒーで待っててもらおう。
「これさ」
「?」
「リストバンド。最近やっと慣れてきたよ。でも片手何キロなの」
「3キロ」
「じゃあ両手で6キロかあ、結ちゃんにすれば軽いんだろうけどさ」
「うん」
「何でおもりなんかつけんの?鍛えるためってだけじゃないっしょ」
「…」
足枷作戦、と結ちゃんは困ったように言った。
「あしかせ?」
「…」
ちょっと外してみ?と俺は言ってみる。
結ちゃんが少し屈んで、右脚のおもりを外した。
途端。
「わ!」
眩しいぞ!
俺は目を細めた。
「…だから」
「だからじゃねえよ、やめろ、目が痛い!」
「…」
またおもりをつける。
すると普通の視界になる。
「美人に足枷作戦っていうわけか…おもりは単なる鍛える道具じゃなくて、
 美人度を抑えるためのツールなんだね」
「…そうらしい」
そうこうしているうちにパフェとホットケーキ、そしてコーヒーが運ばれてきた。
「いっただっきまーす」
「いただきます」
むふふふう、と俺はにやけてしまう。
結ちゃんのご飯もおいしいけど、たまにはこういう甘いものも食べたいのだ。
俺は気が付かないんだけど、俺を真向かいで見ている結ちゃんはにこにこしている。
「…」(可愛い)

家族になるということ

家に帰ってからお父さんに頭を下げた。
「逢ってきました」
「うん、元気だった?」
「いえ、その、具合悪そうで…」
もうすぐ死んじゃうんだと分かっているのに、俺は何も言えなかった。
特別な言葉もかけられなかった。

「今日はもう仕込みは」
「うん、終わったからもう寝るだけなんだ。久々に冬至君と話せて嬉しいや」
「…その、前の話ですが」
「うん」
「俺、家族って何かまだ分からないんです。父さんも、母さんも、もうすぐ目の前からいなくなるって、
 分かってても、それでも何もできないし、ガキだから…」
「うん」
「でも、ありがとうって言葉は言いたかった。言いたい。でもそれは、結ちゃんにも、お父さんにも言いたい」
そして、お母さんにも。
産んでくれてありがとうと言いたい。
こうして生きていることが、どんなに倖せなのかを、俺は最近思い知っている。
さっきの甘いパフェを食べられるのも、生きているから。
結ちゃんといられるのも、生きているから。
出逢いは最悪だったけど、
今は。

「もうちょっと時間をください。答えはちゃんと出します」
「急がなくてもいいんだ、冬至君が選んでくれていい。ごめんね、親の我儘で、
 結の近くに居てやってくれないかななんて言っちゃってさ」

家族であること、それは当たり前に隣に居ること。
一緒にご飯を食べて、一緒に寝たり起きたりして。
そういう、何気ない毎日の繰り返しが、家族じゃなくても家族にしていく。
そういうものだと、俺は今、思っている。
いつかこの家に帰ってくることが当たり前だと思えるようになったら、
その時は。

あなたには読めるでしょうか

冬至のことを、本当に真剣に思っていてくれる方がいるのなら、と、
わたしはこれを書いています。
あなたには読めるでしょうか?

冬至はわたしと浪さんの間に生まれた、大切な子供です。
わたしはしにんととして、浪さんはゆめんととして、この世に生を受けました。
いずれ、というか、
もうすぐ、わたしも彼女のいる世界に行きます。
やがては冬至も来る場所だと思います。
でも、それはあってはならないことだと思います。

もし、冬至が力を使ってしまう時は、あなたが止めて下さい。
制御する方法も教えます。

言葉が通じる状態であれば、ただ単に「駄目だ」と言い聞かせます。
これは簡単な話です。
眠っている状態や混乱状態にあれば、その強い力でもって引きずり出してあげてください。
夢の中から、そしてハザマから、引っ張り出してあげてください。
その方法はあなたが知っています。

浪さんが教えてくれました。
昔の話です。
もし、わたしたちの子供が生まれるとしたら、その子供は『はざまと』をも背負うかもしれないと。
『しにんと』は死者と通ずる力。
『ゆめんと』は夢を通じて人を支配する力。
『はざまと』というのは、残念ながらわたしも浪さんも理解が及ばないところです。
言えることがあるとするならば、
はざまとは、この世界とハザマを行き来する力を持つもの。
そしてやがて、ハザマに身を置いてしまう力。
この世にその『はざまと』と相反する力があるとすれば、
それは『融和者』です。
それがあなたであることは分かっています。

明日あなたはわたしに逢いに来てくれますね。
その時に冬至をお願いするつもりです。

冬至は可哀想な子です。それでも、あなたが倖せにしてくれると信じています。
ありがとう。
これから、よろしくお願い致します。

中村忠則

でこちゅう解禁

可愛い、と思う。
すやすやと真横で眠っている冬至は、今日は疲れたと言って、
すぐに寝てしまった。
その寝顔を俺は暗闇で見ている。
間接照明なしでも、星の明かり、月の明かりで見えている。
「…」
指でその鼻をつついてみる。
「むー」
嬉しくなる。
「…ふゆちゃん」
そう、冬至をふゆちゃんと呼ぶのは、冬至のお兄さんたちだと知っている。
本人はもう忘れているかもしれないけれど、
小さい頃から特に4番目の兄、誉という人にそう呼ばれていた。
という話を父から聞いたことがある。
「ふゆちゃん」
可愛い。
すごく可愛い。
俺の、初恋の人。
その額に口づけてから、俺は目を閉じる。
夢の中までも、君に逢いたい。

シヴァとディーヴァⅥ

家族になる一歩手前。
そして、でこちゅう解禁。
ひとつずつ何でもかんでも解禁していって、
最後には?

シヴァとディーヴァⅥ

いちゃいちゃ第六弾。 でもちょこっと前に進む。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 青年向け
更新日
登録日 2019-11-30

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