ディープ・ブルーの夢

 やくそくは、いつも、宙ぶらりんです。
 まばゆい光が、石になった町を、こなごなにしました。石は、すでに、かわいていたので、水分もふくんでおらず、指先で突いただけでも、家の壁は、ばらばらとくずれおちるのでしたが。
 あの、あざらしのことは、すこしだけおぼえています。
 きみのことが、好きで、好きで、どうしようもないという感じで、あざらしは、いました。息をして、さかなをたべて、およいで、ねむって、きみがくれば、きみのこと、じっとみつめていて、それは、もう、かんぜんに、恋だったと思います。まよなかの、パンやさんの地下室で、ひみつの会合がおこなわれていて、ときどき、きみも、参加していた。いまさらだけれど、ひみつの会合、とやらの内容を、ぼくは、ちゃんと知りたかったです。知っていれば、きみはもっと、うつくしいかたちで、のこっていたのかもしれない。いや、うつくしいかたち、というのは、きみが、きみであるということで、つまり、のこっているのは、きみのすべてで、あってほしかった、ということです。ふだんは、砂糖とミルクをいれないと飲めないコーヒーを、ある日、ふと、思い立って、なにもいれずに飲んでみたときの、なんとなくの後悔、みたいなものとは、ちがうのでした。

 青い花は、海です。
 きみは、青い海の底で、ねむります。
 きみは花壇で、きみは深海です。

 きみの肉体は、青い花を咲かせて、きみを覆い隠しました。
 町の石は、乳白色で、細やかな砂となった町は、歩くたびに鳴きました。きゅ、きゅ、と、みじかい悲鳴を、あげました。あざらしの水槽は、もう、からっぽでした。

ディープ・ブルーの夢

ディープ・ブルーの夢

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-11-29

CC BY-NC-ND
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