【少女の想いは煙に巻かれてかき消され】

立津 てと

「アタシ、家族以外の人と焼肉食べるの、初めてなんです」
「へぇ、そうなんだ」
「へぇ……じゃないですよ。その記念すべき初体験が先輩なんです!ちょっとぐらい喜んでくれてもいいじゃないですか!」
「えっ……ご、ごめん、それはそれは光栄です」
「はぁ、何っすか、それ。もういいです。どうせ、先輩には分かりませんからっ!それよっか、アタシ、ビール飲んじゃおうっかな」
「ダメだよ、ヒロちゃん……まだ未成年でしょ?」
「かたいこと言わないでくださいよぉ、一杯ぐらい、いいじゃないですかぁ?」
「法律うんぬんとか量の問題じゃなくてね、帰りが危ないかなって思って……駅から結構遠いんでしょ?」
「大丈夫ですよ。一杯ぐらいじゃ酔っ払わないし。それに、今日はボディガードが付いてるから安心なんです」
「凄いね、ヒロちゃんってボディガード雇ってるんだ?」
「何言ってるんですか!先輩のことですっ!」
「えっ?オレ?オレのバイト、警備員だよ。警備員とボディガードはちょっと違ってね……」
「警備員とボディガードの違いぐらい知ってますっ!もういいです。一人で帰ればいいんでしょ?」
「ダメだって。一人じゃ危ないから、オレが送っていくよ」
「どうして最初からそう言えないかなぁ……」
「ん?何?」
「何でもありませんっ!」

「もぉ、レバーとかその白いモニョモニョしたのばっかり焼かないでくださいよ。アタシ、内臓は苦手なんです」
「内臓って……何か、不味そうに聞こえるじゃん。せめてモツって言ってよ」
「でも、肝臓とか胃袋なんでしょ?そんなのハラワタじゃないですかぁ」
「モツだってば」
「モツでもハラワタでもどっちでもいいですけど、先輩、もっと野菜も食べてください。肉食獣みたいですよ」
「肉食獣って……野菜もちょっとは食べてるよ」
「全然足りてませんっ!身体壊しますよ。ちゃんとバランス良く食べて……って言ってるそばから、何で肉取るんですかっ!それに、それ、まだ焼けてませんっ!」
「これぐらいで食べた方が美味しいんだよ」
「まだ早いですっ!そんなの、全然生じゃないですかっ!ホントに肉食獣みたいですよぉ……」
「分かったよ、もうちょっと焼けばいいんだね?」
「そんな投げやりな言い方しなくてもいいじゃないですかぁ……アタシ、先輩の身体を心配して言ってるのに……もぉ、いいですよ、勝手に生で食べたらいいじゃないですか!」
「生じゃないって。半生だよ」
「そんなことどうでもいいですっ!」
「ごめん……怒った?」
「怒ってませんっ!それに、怒った?なんて聞かないで下さいっ!」
「うん……確かにヒロちゃんの言う通り。こんな安い店だと、しっかり焼かないと怖いもんね」

「ねぇねぇ、先輩知ってます?」
「何?」
「あのね、焼肉を二人っきりで食べに来るカップルはですね、高い確率でエッチ済みなんですって」
「へぇ……そんなデータあるんだ」
「キャハハ、もっ、そんなエッチィ目で見ないで下さいっ!」
「えっ?オレ、そんな目してた?」
「キャッ、もぉ、先輩ったら白々しいわぁ……」
「ねぇ、ヒロちゃん、酔っ払ってる?」
「酔ってーましぇーんよぉー……あ、さては先輩、アタシのこと酔わそうとか考えちゃったりしちゃったりなんでしょ?もぉ、ヤダ、ヤラシイ……」
「大丈夫?」
「アーターシーわぁ、しらふですぅ……」
「ちょっと休んだ方がいいね」
「やだぁ、先輩、何考えてるんですかぁ?休むとか言って、キャッ、もぉ、エッチ!」
「ヒロちゃん、完全に酔ってるね……」
「酔ってましぇんっ!先輩がエッチな妄想するからいけないんですっ!」
「ヒロちゃんが勝手に妄想してるんじゃないの?」
「何で先輩っていつもそうなんですか?こんな可愛い子と一緒に過ごしておきながら……もう5回目ですよ、デート、それなのに……どうして何も……ヒロってそんなに魅力ないですかっ!?」
「ヒロちゃんのことは、可愛いと思ってるよ……」
「えっ?ホントですか!?」
「ホントだよ。それにオレも分かってるつもりだよ。ソロソロ……」
「嬉しいっ!!あっ、でも、まだダメです!まだ早いですからねっ!」
「あ、ごめん、そうだったね、もうちょっとしっかり焼かないとね」
「肉の話じゃないんですっ!」


(了)

【少女の想いは煙に巻かれてかき消され】

【少女の想いは煙に巻かれてかき消され】

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-11-29

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